町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

梶井 基次郎『檸檬』らん読日記

2007.03.15(木)

 梶井基次郎の『檸檬』は、大正十三年十月に完成をみた小説だそうですが、今日にも通ずる面を多くもった作品です。

 「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」との書き出しは、カフカの『変身』の冒頭を想起させ、現代人が共通してもつ愁訴をまず露呈させます。
 この”不吉な塊″は、「えたいの知れない」ものであるがゆえに、現代性を獲得しているのです。

 面白いのは、”不吉な塊″はえたいの知れないものですが、それを鎮めるのは、丸善であり、檸檬であるといった具合に、個別具体的な物象であることです。
 こうして、具体的個別な「物」のみが、えたいの知れない不吉な塊をもった現代人を癒してくれることを、梶井は図ったように読者に教えてくれたのでした。