町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

『都市』第47号 「私の心に残る一句」俳句

2015.10.15(木)

蚊帳出づる地獄の顔に秋の風

 上記の句は加藤楸邨昭和十四年の作、『颱風眼』所収。

 この句を山本健吉は『現代俳句』にて、「房事の後の、何ともいえない虚脱したような自己嫌悪の気持ちを言い取ったのだ」と記している。つづけて健吉は、「「地獄の顔」とはもちろん自分の顔を客体としてとらえたのであって、女の顔ではない。「自分の中にひそんでいるみにくい獣」をその時の顔に感じ取った」と記す。

 それをとらえて岸本尚毅は、「「地獄の顔」にかんするかぎり、それが「房事の後」でなければならない必然性があるかどうか、私には依然わからない」(『本の旅人』平成十二年三月号)と指摘している。

 なるほど、その後段で、岸本は「「房事」を連想させるのは「蚊帳」であろう」と記しているものの、「「房事の後」でなくても、種々の苦悩や鬱屈によって人が「地獄の顔」になることはあり得ると思う」と、ありきたりな解釈に片寄せてしまう。

 ここはやはり、健吉がいうように、「房事の後」ととらえるのが自然と思われる。いずれにしろ、健吉がいうように「俳句でなければとらえられない情景」を詠んだものであり、心に残る一句である。