町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

エコネット町田 『「環境法」について』町田の、らん丈

2010.03.28(日)

エコネット町田 T&D 2010/3/28
『「環境法」について』 三遊亭らん丈
1、「環境法」とは
 日本では、環境(Environment)関連の基本となる法律である環境基本法(Basic Environment Law)が1993年に制定された。その後、多数の個別法(Individual Law)が制定されているが、それ以前のものも含め、これらを総称して環境法(Environmental Law)と呼ぶことが多い。

 日本の環境問題に対処するための基幹となる法律が、環境基本法(Basic Environment Law)であり、1993年に制定された。前身は公害対策基本法(Basic Law for Environmental Pollution)であり、それに自然環境保全法(Nature Conservation Law)の自然環境対策に関する理念部分も組み込まれた。

 その環境基本法の中の条文(Article)として、具体的な行動のための計画を策定することが謳われており、それが環境基本計画である。1994年に1次計画が閣議決定(Cabinet Decision)され、さらに、2002年には第2次計画が、2006年には第3次計画が策定され、現在に至っている。

 第3次計画では、環境的側面・経済的側面・社会的側面の統合的な向上の提示、市民・企業など各主体へのメッセージの明確化、定量的な目標・指標による進行管理、などが謳われている。

2、今日の大学法学部では、「環境法」の講座が設置されているのが常識化している。その上、法学部によっては、「環境」を名称に入れている学科すらある。
e.g.上智大学法学部地球環境法学科 
  明治学院大学法学部消費情報環境法学科

3、早稲田大学及び大学院において、2010年度に開講される授業科目のうち、「環境」をキーワードで検索すると、5070もの授業がヒットした。
 「環境法」を冠した授業だけでも、2010年度は21件ある。
e.g.早稲田大学「環境法」、「比較環境法研究」、「環境法政策研究演習」

4、環境法の根本を担う法律分野
 民法、行政法、国際法の3種の法律分野をミックスして、環境法は出来上がった。

5、所有権への抵抗
憲法29条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

民法207条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。 

 しかし、環境法を学ぶ上では、他面では所有権の呪縛からの開放を目指す動きがあることに気づく。
 環境保護の問題を考えていると、どうしても土地所有権に一歩後退してもらいたいという局面が出てくる。

 ところが日本の法制度は、環境保護と密接に関わる分野のものであっても、土地所有権の尊重の方に手厚く仕組まれていることが多い。例えば、ゴルフ場建設のために森林の開発許可が求められた場合、行政機関としては、法律に規定されている許可の要件が満たされている以上は許可を与えざるを得ない。結局その土地の所有権が尊重されるために、法律に規定されている以上の制限を課すことはできないと考えられているからである。

 奄美「自然の権利」訴訟第一審判決・鹿児島地判平成13年1月22日
 「当裁判所は、既に検討したとおり、『原告適格』に関するこれまでの立法や判例等の考え方に従い、原告らに原告適格を認めることはできないとの結論に達した。しかしながら、個別の動産、不動産に対する近代的所有権が、それらの総体としての自然そのものまでを支配し得るといえるのかどうか、あるいは自然が人間のために存在するとの考え方をこのまま推し進めてよいのかどうかについては、深刻な環境破壊が進行している現今において、国民の英知を集めて改めて検討すべき重要な課題というべできである。」

6、ノーベル経済学賞と環境法との関係
 昨年のノーベル経済学賞を受賞したのは、米カリフォルニア大学バークリー校のオリバー・ウィリアムソン教授とエリノア・オストロム米インディアナ大学教授の2名であった。
 そのうち、オリバー・ウィリアムソン教授は、通信社トムソン・ロイター社の事前予測にあったが、エリノア・オストロムは事前の予測には名が載っていなかった。
 なぜならば、オストロム教授は、政治学者であり、経済学者とは認知されていなかったためである。
 評価された業績は、森や湖などの共有資源が人々によって適切に管理されていることを示した研究である。

 スウェーデン王立アカデミーは、「共有資源は規制や民営化に委ねられるべきとの従来の考え方に挑戦した」と評価した。

 これは、アメリカの生物学者ギャレット・ハーディンが1968年に発表した論文「コモンズの悲劇」が前提にある。コモンズとは共有地のこと。だれでも利用できる共有地の資源は、経済的利益を求める利用者同士の競争によっていずれ枯渇することを、牛飼いと牧草に例えて説いた理論である。

 そこが自分の所有地ならば、牛飼いは牧草を食べ尽くさないように調整する、というわけである。ところが、経済の歴史を紐解くと、ハーディンの説は必ずしも正しいわけではないことがわかる。その利用を利害関係者が共同管理するケースでは、資源は枯渇するどころか、むしろ護られてきた、とオストロム教授は指摘した。

 つまり、「みんなの資源」は「誰の資源でもない」と見なされがちなため、過剰に搾取されてしまうことが多い。これが「コモンズの悲劇」と呼ばれ、不法投棄がやまない空き地から温暖化の進む大気に至るまで、環境問題の場で頻繁に想起されてきた。

 それに対して「悲劇」を避けるには、政府が課税や補助金などの手段で規制をかけるか、共有資源を個人に任せるのが定説であった。そこに抜け落ちていたのは地域のコミュニティによる自発的管理という選択肢である。

 1990年に出されたオストロムの主著『コモンズの統治』は、日本の山中湖周辺の入会では入山してよい期間、使ってよい道具、採取してよい産物に集落単位で自己規制をかけ、反則者には厳しい罰則を課すことで森林を持続させてきた実例を紹介している。

 オストロムは、画一的なモデルを現場に当てはめるのではなく、現場の試行錯誤から生まれた成功の事例を拾い集め、そこに共通する原理原則を見出そうと努めた。

7、NIMBYシンドローム
 周辺住民が廃棄物処分場などの迷惑施設の設置に反対する現象は、「うちの裏庭お断り(Not In My Backyard)」症候群(シンドローム)の典型的なものである。

 廃棄物処分場の設置には、都道府県知事の許可が必要である。事業者による設置許可の申請に際して、周辺住民の同意を得るように、あるいは周辺住民や市町村と公害防止協定を締結するように、知事が申請者に行政指導するということが多く行われている。住民の同意が得られなければ、許可を与えないこともあった。これは、周辺住民に処分場設置に関する拒否権を与えるようなものであり、判決はこのような運用を違法とした。

 不許可処分が取り消された例として、釧路産廃処理場不許可事件(札幌高判平成9年10月7日)を挙げることができる。本件は、産業廃棄物最終処分場の設置許可申請が、近隣住民の反対や行政指導への不服従を理由として不許可にされた事案で、裁判所はこの不許可処分を違法なものであるとして取り消した。

 北村喜宣(上智大学)教授
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)にもとづく産業廃棄物最終処分場設置申請不許可が争われた(釧路市産業廃棄物処理場事件)においては、不許可処分を支持する根拠のひとつとして、被告知事は、環境基本法を援用した。すなわち、環境基本法19条、36条、8条は環境配慮義務を規定するから、個別法の要件の有無にかかわらず、処分にあたって環境に配慮する裁量は認められるべきである。また、同法8条にもとづく事業者の責務規定によれば、許可申請に至るまでの行為と事業者としての責務を知事が処分にあたっての考慮事項とすることができる。 

 後者の主張は、若干わかりにくいが、裁判所は、これらに正面から答えて、以下のように述べている。すなわち、同法は、「個別の具体的な法規制や法的措置を定めるというよりも、むしろ国政に重要なウエイトを占める分野について、制度、政策に関する基本方針を明示することにより、基本的政策の方向を示すことを主な内容とするものであって、……知事に〔不許可とする〕裁量があるものと解することはできない。」としたのである。政策誘導機能を有するにすぎないという理解であろう。