二十世紀の掉尾を飾るプロ野球日本シリーズがいよいよ二十一日から始まります。今年はその対決が、待望久しかった長嶋ジャイアンツと王ホークスによるものですから、興(球)趣はいやが上にも盛り上がっています。
ぼくが噺家になる以前は、三遊亭圓窓師匠率いる”ダジャレーズ”や古今亭志ん駒師匠率いる”ヨイショーズ”、春風亭小朝師匠率いる”ワカサマズ”等等の落語家野球チームがあったらしいのですが、らしいと言うだけで確認は取れておりません。間違っていたら、御免なさい。お詫び申し上げます。
野球の代わりにゴルフが一時期噺家仲間では隆盛を極めましたが、ぼくのように身体を動かすことにはまるで興味のない者は専らTV観戦を楽しむのみです。
他国人はスポーツを見ることにどんな楽しみを見出しているのかは存じませんが、こと日本人はスポーツのなかでも特にプロ野球においては、人間関係や組織管理にも大いなる興味を抱いて観戦しているのは、いまさらぼくなんぞが云うまでもないことでしょう。
たとえばメジャーリーグではついこの間まで、選手がどんな学校を卒業していようと、そんなことを話題にするジャーナリズムもファンも皆無だったらしいのです。ところが、ベイスボールを正岡子規が野球と訳した日本では、プロ野球名簿には必ず出身校の欄が設けられています。その結果、星野監督を始め明大OBが多い中日だとか、六大学出身者をドラフト一位で指名する傾向が認められる巨人といった、およそスポーツとは何の縁もないことが巷間での話題に上がるのみならず、スポーツ新聞の話題作りにも一役買っています。そんなことを日本で覚えた選手がメジャーに戻って「日本の野球界では、どの学校を出ているかが結構興味を引いているんだぜ、信じられるかい」なんというのが、いつの間に広まってしまったのか、今では米球界でも興味の対象となってしまったらしいのです。
そこへいくとわが落語界は、健全ですね。学閥は一切存在しません。けれど、三人寄れば派閥を作るのが日本人です。師匠とその弟子で形成する一門を始め、楽屋には様々な連合体が網の目のように張り巡らされているのです。たとえば、入門時期を同じくする同期や、同県出身者で作る県人会、四人で卓を囲んで中国語を介して遊ぶ趣味人の集いと云えばもうお判りですね、あるいは馬の走る姿をこよなく愛する者は、週末になると額を集めて情報を交換しては分析にいそ勤しんでいます。
話を日本シリーズに戻しますと、圧倒的な戦力を誇る我が愛する巨人軍と鷹軍団の対決、ぼくのような何にも知らない者はただ野球の醍醐味を堪能すればよいのですが、一ファンとして今シリーズを予想すると、四勝二敗で福岡勢が昨年に引き続いての二連覇を遂げる気がする。どうかこの予想が外れますように。