さる5月28日に、新宿住友ビルの地階にある住友ホールにて、“現場で格闘する日本の構造改革”と銘打つ、講演と対談のシンポジウムがあり、らん丈も出席しました。ちょいと日がたっていますが、今回はそのレポートです。
まず、関西学院大学ですが、兵庫県にキャンパスをもつ大学のため、関東以東の在住者には若干馴染みの薄い学校ではあります。けれど関西の私学で、「関関同立」(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)といえば、東京では早慶上智、に匹敵する、難関受験校として、有名です。それが証拠に、さる7月17日に文部科学省が発表した今年度の「21世紀COEプログラム」(優れた大学の研究機関や拠点を選抜して重点的に資金を援助する)において、兵庫県の私大では唯一採択された大学として、その実力を内外に示しています。
とはいえ知らない方は知らないでしょうから、校名の読み方から念のために、お知らせしますと、クヮンセイガクイン、と読みます。決して、カンサイガクインでもなければ、カンセイガクインでもなく、クヮンセイガクインが正しい読み方です。
実生活で関をクヮンと発音する方は、いまや大変稀な存在、というよりも、高島俊男さんがいうように、三木武夫元首相が最後だったのでは、と思われるほどに、完全に時代遅れとなってしまった読み方です。けれど、古典落語、たとえば「やかん」では、今でも観音さまを、クヮンオンさまというように、古くから(特に西日本では)ごく普通に使われてきた読み方です。
では、どうしてカンオンのオンがノンになるのか。カンのン(つまりn音)が下のオにかぶさってノになったためで、これを「連声(れんじょう)」というのです。たとえば、因縁、反応、天皇などもみな連声です。
漢字は、主要な読み方として漢音と呉音がありますが、西は呉音ではサイ、漢音ではセイと呼びます。ですから、ヤクルトスワローズが春のキャンプを展開する宮崎県西都市をサイトシと読み、そこも舞台となった西南戦争では、セイと読むわけですね。
以上の理由から、関西学院をローマ字ではKWANSEI GAKUINと記し、それを商標登録しているのです。
さて、本題に入りましょう。この会は関西学院大学産業研究所が主催し、この日を含めて、翌日は北川正恭(前三重県知事・早大大学院公共経営研究科教授)、最終日は松本英昭(元自治事務次官)と3日間にわたって繰り広げられた、“地方自治改革のいまを考える”シンポジウムだったのでした。当日は、逢坂誠二(北海道ニセコ町長(当時)・現衆議院議員)が、「市町村の自治体改革」と題し、人口4500人のまちニセコの意識改革について、講演し、その後で、同町長と小西砂千夫(同研究所・大学院経済学研究科)教授が対談しました。
逢坂誠二町長といえば、今春の北海道知事選挙では、マスコミで最後まで立候補が取りざたされましたし、現在3期目ですが、最初の選挙では町役場の係長から立候補し、上司を破って当選した、らん丈と同じ昭和34年に生まれた、働き盛りの町長であり、地歩自治の若きエースのおひとりとしてあまりにも有名です。
逢坂氏は町長になると、職員のときに感じていた様々な問題点をあぶり出し、それを解決する方策として、職員と町民との情報の共有、住民参加、職員のスキルアップを挙げていました。
その結果が、おそらく日本の地方公共団体では初めてつくられたと思われる、「まちづくり基本条例」であり、職員一人当たり年間13〜15万円を使って行われる職員の研修制度です。
しかし、他国はいざ知らず、日本においては、逢坂町長が指摘するように、住民と役所の関係はいびつなものとなっているのが現実です。たとえば、そこでは危機があると、お互いに依存し合い、市民は自己責任を担おうとはしません。また、行政は、住民はただ不平不満をぶつけるものだという認識しか持っていません。
これではとうてい、住民と役所が協働して、より住みやすいまちづくりをしようとする誘因を、お互いに共有することはかないません。
あるいは、こんにち行政に切に求められているのが、「accountability=説明責任」です。特に、予算の説明は、各地方公共団体にとっては最も重要なものであり、また住民もそれを求めているのですが、たいていの場合、それは広報に掲載されるだけで、とても説明の責任を全うしているとはいえません。ここ町田市においても、それは例外ではないのです。
そこでニセコ町では、説明責任の責務を果たすために、わかりやすく予算を説明する冊子『もっと知りたい今年の仕事』を作成し、全世帯に配布しています。そこには、行政にとって都合のよいことも悪いことも並列表記しています。
これにしても始めは、その必要性に疑問が持たれたようですが、発行を重ねるうちに、徐々に浸透したそうです。具体的には、職員間の情報共有に役立ち、住民もそれによって、予算内容を精査できるようになり、いまや、この冊子の配布を楽しみにしている住民が出てきたということです。
以上は、首長が変わることによって、行政が変わったという、ひとつの例証です。
いつの頃からか、日本人は政治になんの期待も持ちえなくなりましたが、このような首長が現に、この日本にもいることを考えると、われわれの負託を担いうる政治家が、僅かではありますが、確実にいることを、再認識させてくれたのでした。
最後に。関西学院のスクールモットーは“Mastery for Service”「奉仕のための練達」だそうで、いかにもメソジスト教会から派遣されたランバスという創立者によってつくられた学校らしい、ミッション(使命)です。
なかでもぼくが注目するのは、同大学総合政策学部の基本姿勢である“Think globally,Act locally.”です。「地球規模で考え、足元から行動せよ」は、日本の消費者運動を牽引した、野村かつ子さんも提唱していたことです。
まさに、地方自治を担う者に、いま最も要請されることのひとつが、そこに示されていると、ぼくは思うのです。