さる1月11日(土)立教大学で開かれた上記の会に参加しました。同会は、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科との共催によって、豊島・杉並・練馬合同NPOマネジメント研修実行委員会が企画したものです。
この会は、講師に、社会福祉法人大阪ボランティア協会事務局長早瀬昇さん、上記の研究科講師でもある、NPO法人ケア・センターやわらぎ代表理事の石川治江さんの両名をお招きし、両氏の講演と対談を中心に、2時間半にわたって繰り広げられたシンポジウムでした。
それにつけても一驚を禁じえなかったのは、会場となった300人近くは入れると思われる教室を埋め尽くした、参加者の多さと、シンポジウムにかける真摯な熱気でした。
さてそのNPOですが、今どき、NPOをご存じない方はいらっしゃらないでしょう。けれど、念のために確認しましょう。NPOが一躍脚光を浴びる最大のきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。延べ100万人を超えるボランティアスタッフが、地元のNPOを拠点にしたことによって、迅速にきめ細かい活動を続けることができたのでした。これが、地域主義、縦割りの、従来の行政組織を頼っていて、あれほど活発なボランティア活動を推進することが出来たのかは、きわめて疑問とされるところです。
それに加えて、NPO法(特定非営利活動推進法)が1999年に成立したことが、NPOの認知度を一層上げる効果を生み出しました。たとえば、市民団体が法人格を持つことができるようになったために、電話の開設や銀行口座をそれまでのように、個人名義ではなく、法人としてできるようになったのです。
こうして、NPOは市民に認知された存在へと飛翔したのでした。それが証拠に、2002年度において、立教大学と同大学院で開講された学科目のうち、48もの科目で、NPOについての講義、演習がなされたのでした。これは、一昔前では考えもつかない事態です。
面白いのは、NPOの実質が変化していることです。始めは、NPOをNon Profit Organization=非営利組織といっていたのが、どうも実態を反映していないからというので、ちょうど21世紀になった頃から、Not for Profit Organization=営利を目的としない組織へと、それを表す言葉が、変化したことです。
くわえて早瀬氏によれば、Not for Profit but for Mission Organization=営利のためではなく使命のための組織、という新たな視点が育ってきているといいいます。ただ、それを言うならば、ほとんどの企業は設立時になんらかのmissionを担っていたはずではないでしょうか。その意味からも、これからの企業は、設立時に立ち返ってFor Profit and For Mission Organizationでなければ、円滑な企業活動が推進できなくなるのではないでしょうか。その好い失敗例が、先年の雪印の不祥事です。いうまでもなく、雪印が犯した誤りはfor missionの軽視にあります。
石川氏はさらに刺激的な話題を提出してくださいました。
それは、社会福祉法人の問題です。介護保険が導入されてから、社会福祉法人はそれによって新たな収入源を得ました。ところが、社会福祉法人は非課税組織であるために、介護保険で得た収益には課税されません。それに反して、NPOも介護保険での労働を供することによって収益をあげていますが、そちらには課税されるのです。これは、果たして平等といえるでしょうか。石川氏は、社会福祉法人といえども利益には課税をすべきだと主張します。課税をすれば、税金によっていったんは政府に徴収されるものの、それはなんらかのかたちで社会に還元されますが、非課税のままであれば、その収益は、ただ、社会福祉法人の懐を暖めるだけなのですから。
つまり、企業は右手でもうけ、それを左手で使うとされていますが、NPOは右手でもうけ、左手で人生を豊かにすることができます。それに比して、社会福祉法人は右手でもうけ、左手には政府からの援助をもらい、そしてそれをただ溜め込むのみだと、石川氏は言うのです。
もうひとつの石川氏の提言は、人間は所詮烏合の衆であるということです。なるほど、一人ひとり顔かたちが違うように、意見もそれぞれ違うでしょう。しかし、政府は何らかの施策を講じなければなりません。そのときに、住民の声をこと細かく聴いていたら、なにもできないというのが実態だというのです。
たしかに、そうです。民主主義というものは、本質的にたいそう時間がかかる装置なのですから。しかし、これに代わる有効な装置をまだ発見し得ない我々は、当分この民主主義という装置を使い続けなければなりません。そのためには、ごく一部の声のみを反映させる偏った民主主義は、排除しなければなりません。
そのためにもNPOをもっと発展させて、政府に対するカウンターパートナーに育てるのが、我々に課せられた責務ではないでしょうか。
そんな思いをいだかせた、シンポジウムだったのでした。