【箇所】一橋大学 国際・公共政策大学院 公共法政プログラム
一橋大学大学院 法学研究科 修士課程・博士後期課程
【科目】政策法務研究・行政法特殊問題第一
【開講学期】2011年度 冬学期[2単位]
【担当】米田 順彦 教授〈一橋大学大学院 法学研究科〉
【課題】『社会保障・税の一体改革』
【目次】
1、なぜ税と社会保障の一体改革なのか
1-1、財源不足を解消する必要
1-2、どうして財源不足となったのか
2、社会保障と経済
2-1、マクロ経済から見た社会保障
2-1-1、社会保障と国民負担率
3、日本の社会保険料の行き詰まり
3-1、負担と受益の対応関係の希薄化
3-2、負担と受益の対応関係の希薄化の主な原因
3-2-1、社会保険料が社会保障制度間の所得移転に用いられている
3-2-2、少子高齢化に伴う年金の収益率の低下
3-2-3、老齢基礎年金、全国健康保険協会(協会けんぽ)、国民健康保険、および後期高齢者医療制度等に政府部門間を移転して公費負担が投じられている
4、平成23年度第30回における内閣府税制調査会「社会保障・税一体改革素案」について
4-1、「社会保障・税一体改革素案」の内容
4-1-1、消費増税などの税制抜本改革素案
5、論点
6、おわりに
1、なぜ税と社会保障の一体改革なのか
民主党は、2011年11月30日の厚生労働部門会議において各分野の作業チームの報告を了承し、同年12月16日に、消費税の増税とセットで議論してきた社会保障改革の最終案を取りまとめた。それをうけて内閣府は、同年12月30日の平成23年度第30回税制調査会において、「社会保障・税一体改革素案」(案)をまとめた。これを、政府と与党でつくる社会保障改革本部で素案として決定することとしていたところ、2012年1月6日、野田総理は総理大臣官邸で、政府・与党社会保障改革本部を開催し、当日の会議で「社会保障・税一体改革素案」が、決定した 。
また、野田首相は、2012年の通常国会開催を前に、1月13日に内閣を改造し、あらたに行政改革担当社会保障・税一体改革担当公務員制度改革担当内閣府特命担当大臣として、岡田克也衆議院議員を任命した。
この動きにみられるように、わが国の社会保障は改革の途次にあるが、なぜいま、社会保障は税と一体のもとに抜本的な改革が必要とされているのか。
それは、わが国における税と社会保障の一体改革を、先進諸外国におけるそれと比較した場合、低率にある日本の消費税の税率を引き上げることにより、以て財政収支の均衡に寄与させようというごく狭い意味での改革として指摘される場合が少なくない。逆にいえば、税と社会保障の一体改革といえば、消費税率の引き上げに矮小化した論議が横行している感がある。
しかし、本来、税と社会保障の一体改革は、より広義に、かつ、高い次元で捉えられるべきものである。そのため、税と社会保険料をそれぞれの本来的役割に即して再構築することは、今日の日本では喫緊の課題といえよう。
したがって、当リポートでは、社会保障と税の一体改革をより広義にとらえたうえで、それについて言及したい。
1-1、財源不足を解消する必要
社会保障と税の一体改革が必要とされる主な理由の一つに、社会保障財源の大幅な不足を早急に解消しなければならないという、わが国の財政事情がある。
たとえば、2008年度では、社会保障に関する給付費は94.1兆円であり、その財源には、年金保険料、健康保険料、介護保険料をはじめとする社会保険料が充てられているが、それ以外に、国及び地方公共団体の一般会計に大きく依存していることが指摘できる。
また、国も地方公共団体も、これらの社会保障を担う社会保障関係費のすべてを税で調達しているのではなく、国でいえば特例国債(赤字国債 )を発行することでそれを賄っているのである。
そこで、財政法4条1項 をみると、国債の発行は建設国債に限って発行が認められているにもかかわらず、特例法によって、赤字国債を発行することがすでに常態化している 。
このことに関して、将来世代に負担を先送りして 、当事者である高齢者には、年金、高齢者医療、介護等の給付を行うという極めてモラルの低い財政運営に陥っていると指摘されているところであり、こうした状況は、長く放置してよいものとはいえない。
社会保障関係費を2011年度予算でみれば、国の一般会計の一般歳出(国債費と地方交付税交付金等を除いた歳出)54.1兆円のうち、同費はその53.1%を占め、28.7兆円となっている(参考文献(以下、同じ)4書21頁図表1-1)。そのうち、年金医療介護保険給付費は21.0兆円にも達しており、社会保障給付のうち同費が占める割合は突出している。
それに対して、税収は40.9兆円しかない。その他の財源7.2兆円を捻出しても、なお税収を上回る44.3兆円を公債金による収入に依存している。こうした税収不足を解消するためには、「合計でおよそ50兆円規模の税収増と社会保障関係費削減の組み合わせが、必要となる」 。
1-2、どうして財源不足となったのか
このような深刻な財政状況に陥った理由の一つは、経済成長の鈍化に伴う経年にわたる税収の低下と高齢化に伴う必然的な社会保障関係費の増加 、及びそこに生ずる収支の乖離に対して、政府が有効な方策を講じることができなかったことにある。
もう一つの理由は、税制と社会保障に関する議論が結果的に低調で、そのため、法的に決めたこと(国会で決めたこと)が実行されにくい、ねじれ国会等の政治状況に求められる。
たとえば、老齢基礎年金の国庫負担割合の引き上げは、2004年の法改正で、老齢基礎年金の給付財源に占める国庫負担割合が、3分の1から2分の1へ引き上げることが決められたものの、その財源が示されることはなかったことが挙げられる。
その議論を時系列で示すと、次のようになる。
法案成立に至るまでの経緯は下記のとおりです 。
平成20年12月24日 ・・・ 持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」
平成21年1月30日 ・・・ 国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案 閣議決定・国会提出
平成21年4月1日 ・・・ 衆議院厚生労働委員会 趣旨説明
平成21年4月3日 ・・・ 衆議院厚生労働委員会 審議開始
平成21年4月17日 ・・・ 衆議院厚生労働委員会 可決
衆議院本会議 可決
平成21年6月2日 ・・・ 参議院厚生労働委員会 趣旨説明・審議開始
平成21年6月18日 ・・・ 参議院厚生労働委員会 否決
平成21年6月19日 ・・・ 参議院本会議 否決
衆議院本会議 再可決・成立
平成21年6月26日 ・・・ 公布
その後、タイムリミットである2008年度末を過ぎても、税制の抜本改革が行われることはなく、2009年度と2010年度の2年間は、いわゆる埋蔵金の取り崩しで賄われることになった。そして、今年度(2011年度)もそれは変わらない。この埋蔵金は、老齢基礎年金給付に用いられなければ、国債償還に充当されたものであるから、埋蔵金とは赤字国債の発行とほとんど変わることはない。
このように、税と社会保障が一括してその内容の検討をされないできたことが、今日のきわめてモラルの低い財政状況を招いた一因と考えられる。
2、社会保障と経済
2-1、マクロ経済から見た社会保障
翻って、主要国の政府は、社会保障サービスの供給にどれだけ、どのような形で関わっているのだろうか。OECD加盟30カ国を、2005年における公的社会支出の対GDP比が高い順に並べると、1位のスウェーデン(29.4%)から30位の韓国(6.9%)まで、国際的には大きなバラツキがあることがわかる 。
図1「社会支出のグロスとネット」(2書6頁)は、そのうちの主要11カ国のデータを示している。これによると、福祉国家の代名詞である北欧諸国や、フランス、ドイツといったヨーロッパ大陸の国々が上位グループを構成する一方、オランダやイギリスが中位グループ、日本やアメリカは韓国ほど低くはないとしても、下位グループに属していることがわかる。
このことに関して、橘木は、「日本は他の先進国と比較すれば、公共支出のGDPに占める比率は最低水準にあるにもかかわらず、政府・国民ともに公共支出を減少させ、かつ生活保障はほどほどにという政策(すなわち「小さな政府」)を目指している」 と指摘している。
公的社会支出は、老齢年金をはじめとした現金給付と、医療や介護サービスのような現物給付とに分けられる。ほとんどの国では、現金給付が現物給付を上回る 。現金給付のうち、年金給付(老齢年金と遺族年金)とそれ以外を比べると、日本やイタリアはその大部分が高齢世代への年金に向けられている。アメリカ、ドイツ、フランスでも、その傾向は強い。一方、デンマークやオランダでは、勤労世代へも同程度の規模の現金給付が提供されている。現物給付は概ねどの国でも医療サービスが大半を占めるが、北欧諸国では、それ以外の現物給付(たとえば介護や育児サービス等)が医療サービスに匹敵する規模になっている。
しかし、政府が社会保障に関与している程度を測る指標として、公的社会支出が適切とは必ずしもいえない点は注意を要する。それは次のような理由による。
第1に、現金給付は所得税の課税ベースに参入され、その一部が税収として政府に還流する可能性がある。所得税は課されなくても、消費段階で付加価値税や消費税を負担すれば、給付の実質額は減ってしまう。
第2に、政府は、たとえば扶養控除や住宅税額減税など税制上の優遇措置によって所得税を減額し、実質的に現金給付を提供したのと同じ効果をあげることができる。財政学ではこれを、租税支出(tax expenditure)と呼ぶ。
第3に、政府は、最低賃金規制を行ったり企業年金や民間医療保険への加入に優遇措置を講じたりすることによって、予算と関わりなく低所得者への移転や高齢世代への給付の拡充を実施できる。
OECDは近年、これらの点を反映させた純社会支出(net social expenditure)を推計し公表するようになった。図1は公的社会支出と純社会支出をそれぞれ用いて、社会保障の規模を比較している。
これを見ると、まず順位に大きな変動があることがわかる。公的社会支出で比較したときは中位もしくは下位に属していたイギリス、オランダ、アメリカが、純社会支出では上位グループに躍進し、北欧諸国と遜色のない福祉国家の様相を見せる。
変動は順位だけではない。たとえば日本の順位は18位から13位へと上昇するが、それ以上に注目すべきは、純社会支出の対GDP比が17.7%から23.6%へと約6%増大する点である。実際、公的社会支出から純社会支出へ指標を変更すると、最上位は29.4%(スウェーデン)から33.6%(フランス)へと若干上昇する一方、20%を超える国の数が15カ国から20カ国へと増加し、福祉国家の規模に関する国際的なバラツキは全体として縮小する。
2-1-1、社会保障と国民負担率
社会保障の負担だけに議論を集中するとして、それをどのように測るのが適切だろうか。
概して用いられる指標は国民負担率である。図3「国民負担率の(対GDP比)の国際比較」(2書14頁)は2006年におけるOECD主要加盟国の国民負担率(租税負担と社会保障負担の合計を市場価格表示のGDPで割った値)を示している。国民負担率の国際的なバラツキは比較的大きく、北欧諸国が高負担国、日本やアメリカが低負担国の代表といえよう。OECD加盟国全体の平均は、39.5%である。
もちろん、国民負担率に含まれるのは社会保障サービスのための負担だけではない 。反対に、社会保障を含めた公共サービスへの対価という点では、医療サービスや介護サービスの現物給付を受けたときの自己負担分をはじめ、さまざまな政府サービスに対する利用料が国民負担率から除外されている。OECD統計は、給付と必ずしも直結していない負担だけを算定するという立場で、国民負担率を測定している 。
3、日本の社会保険料の行き詰まり
今日、日本の社会保険料には、明らかに行き詰まりがみられるようになり、社会保障財源における税と社会保険料それぞれの役割の再構築が不可欠となっていることも、一体改革が求められる重要な背景としてある。社会保険料の名を冠して国民から費用徴収するのであれば、社会保険料本来の機能を回復し、それが困難であるならば、税への負担転嫁を探るといったダイナミックな議論の展開が不可欠とされよう。
3-1、負担と受益の対応関係の希薄化
社会保険料の行き詰まりをあらわす第1の指標として、負担と受益の対応関係が明確であることによって、社会保険に対する信頼性が担保されるのにもかかわらず、それが希薄化していることが挙げられる。
仮に、対応関係が明確であるならば、国民の負担の受容、及び給付の効率化が期待される。すなわち、社会保険料を支払っても、国民に受益が実感されるのであれば、その負担感は軽減される。したがって、負担は受容されやすい。それとは逆に、負担が受益に見合っていないと国民が判断すれば、それが、給付の効率化に向けた原動力となる。
3-2、負担と受益の対応関係の希薄化の主な原因
3-2-1、社会保険料が社会保障制度間の所得移転に用いられている
健康保険における老人保健拠出金(導入は1983年度。現在は、後期高齢者支援金)、前期高齢者納付金(同2008年度)、年金における基礎年金拠出金(同1986年度)、及び介護保険における介護納付金(同2000年度)等が導入され、社会保険料が社会保障制度間の所得移転に用いられるようになった。
これは、たとえば、次にあげるようなことをさす。A制度に払い込まれた社会保険料が、A制度の加入者の給付のみに用いられるのではなく、拠出金や支援金などの名のもとに、高齢者の加入割合が高い、あるいは、高齢者のみのB制度へ流れ出ていく。これは、社会保険料を用いた本来的には税の領域である所得移転の拡大といえ、社会保険料の負担と受益の対応関係を大きく損ねているといった事態である。
3-2-2、少子高齢化に伴う年金の収益率の低下
負担と受益の対応関係が希薄化した2番目の原因は、少子高齢化に伴う、年金の収益率の低下が挙げられる。
年金は、国民年金の場合、およそ40年間保険料を払い続け(20歳から60歳まで)、高齢者となってから亡くなるまで、その給付を受けるという制度である。
このように長期保険である年金の負担(保険料の払い込み)と受益である年金の給付の対応関係については、払い込んだ保険料(負担)とその元本+利息(給付)が見合っているか否かという点が、特に若者にとっては気になるところであろう。
この点に関して、厚生労働省は、厚生年金加入者の場合、若い世代でも2.3倍の給付負担倍率になると公表しているが(厚生労働省年金局数理課(2010年))、これは過度に装飾された数値 であり、実際には、単身世帯であれば0.5倍、夫婦世帯(妻は専業主婦)であれば0.8倍かそれ以下といったところであろうとの指摘がある 。
このように給付負担倍率が1倍を割り込むのは、日本で進行する少子高齢化のため、高齢者を支える若年層の人口がなかなか増えないことが一因であり他の要因として、公的年金財政が年金制度発足当初は、保険料を負担していない高齢者に年金を給付することから、修正積立方式とも賦課方式ともよばれる、自らの保険料をもとに年金給付がなされない制度を基本に運営されているという財政面からの指摘もある 。
ただし、財務省は、公的年金財政については、次のような見解である。
「公的年金制度に基づく将来の支払義務は、財政資金の調達に伴う債務とは性格が異なります。修正賦課(修正積立)方式の下、過去の保険料の蓄積である積立金が積立てられ、将来にわたる年金給付のために有価証券等により運用されており、国の債務管理の在り方に潜在的に影響を及ぼし得るものと考えられます。」
なお、「賦課方式とは、当該年度に集められた保険料は、将来の給付のために積み立てられるのではなく、そのまま当該年度の高齢者の年金給付に充てられる財政方式である。」
3-2-3、老齢基礎年金、全国健康保険協会(協会けんぽ)、国民健康保険、および後期高齢者医療制度等に政府部門間を移転して公費負担が投じられている
上記の仕組みによって、公費が政府部門間を移転することによって、負担と受益の対応関係はなお一層希薄化してしまう。国の場合、一般歳出の社会保障関係費のうち、年金医療保険給付費21.0兆円(図表1−1)がそれである。
たとえば、中小企業に勤務する被用者が加入する協会けんぽには、6.7兆円の健康保険料のほかに、約1兆円の国庫負担が投じられている(2008年度)。しかし、被保険者にすると、医療サービスという受益にかかる費用を認識するのは、あくまでも健康保険料であり、窓口での負担である。したがって、約1兆円の国庫負担があることによって、協会けんぽの被保険者は、医療サービスという受益の費用を、保険料の軽減というかたちで実際よりも国庫が負担した分を低廉に感じることとなる。これが、財政錯覚であり、これは、医療サービスに対する過剰な需要の原因の一つとされる。
このような国庫負担は、厚生年金保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律等社会保険の各法律で規定されている。
たとえば、厚生年金保険法80条1項では、次のように記されている。「国庫は、毎年度、厚生年金保険の管掌者たる政府が負担する基礎年金拠出金の額の二分の一に相当する額を負担する。」あるいは、健康保険法153条1項では、「国庫は、(中略)千分の百六十四から千分の二百までの範囲内において政令で定める割合を乗じて得た額を補助する。」となっている。
4、平成23年度第30回における内閣府税制調査会「社会保障・税一体改革素案」について
4-1、「社会保障・税一体改革素案」の内容
社会保障・税一体改革素案(平成24 年1月6日政府・与党社会保障改革本部決定)
はじめに
〜 安心で希望と誇りが持てる社会の実現を目指して 〜
(国民の共有財産である日本の社会保障制度)
日本の社会保障制度は、戦後の経済成長にも支えられて急速に整備が進み、1960 年代には、国民皆保険・皆年金といった現行の社会保障制度の基本的枠組みが整い、先進諸国に比べ遜色のない制度となっている。医療分野では、患者が保険証1枚で自由に医療機関を受診できるフリーアクセスを実現し、公的年金は老後生活の柱として定着し、平均寿命が世界最長を実現するなど、我が国の社会保障制度は、世界に誇りうる国民の共有財産として、「支え合う社会」の基盤となっている。
以下、略。全部で50頁。
税と社会保障の一体改革:素案要旨(毎日新聞 2012年1月7日朝刊)
「税と社会保障の一体改革」素案の要旨は以下の通り。
<社会保障改革>
【子ども・子育て】
・地域の実情に応じた保育の量的拡充、幼保一体化の機能強化などを行う子ども・子育て新システムを創設。
・恒久財源を得て早期に本格実施。それまでの間は13年度をめどに子ども・子育て会議(仮称)設置や国の基本指針策定など可能なものから段階実施。12年通常国会に法案提出。
【医療・介護】
・高齢化が一段と進む25年にどこに住んでも適切な医療・介護が受けられる社会を実現。
・できる限り住み慣れた地域で在宅生活の継続を目指す地域包括ケアシステムの構築に取り組む。24時間対応の訪問サービスを充実。
・短時間労働者への被用者保険の適用を厚生年金の適用拡大にあわせ拡大。12年通常国会への法案提出を検討。
・高額療養費負担の年間上限導入などを財源確保の上で目指す。年収300万円以下程度の人に特に配慮する。
・高齢者医療の支援金を各被用者保険者の総報酬に応じた負担とする措置を検討。12年通常国会に後期高齢者医療制度廃止に向けた見直し法案提出。
・70歳以上75歳未満の患者負担見直しを世代間の公平を図る観点から検討。
・所得水準の高い国民健康保険組合への国庫補助を見直す。12年通常国会への法案提出を検討。
・65歳以上の介護保険料の低所得者軽減策を強化。12年通常国会への法案提出を検討。
・介護納付金の総報酬割の導入を検討。12年通常国会への法案提出を検討。
・医療・介護・保育などの自己負担合計額に上限を設ける「総合合算制度」を創設。15年度以降の導入検討。
【年金】
1新年金制度の創設
・「所得比例年金」と「最低保障年金」を組み合わせた一つの公的年金制度に全員が加入する新年金制度の創設実現に取り組む。
・所得比例年金(社会保険方式)は職種を問わず全員が同じ制度に加入し所得が同じなら同じ保険料、同じ給付。保険料は15%程度(老齢年金にかかる 部分)。納付した保険料を記録上積み上げ、仮想の利回りを付し、合計額を年金支給開始時の平均余命などで割り毎年の年金額を算出。
・最低保障年金(税財源)は満額で7万円(現在価値)。生涯平均年収ベース(=保険料納付額)で一定の収入レベルを超えた点より徐々に減額、ある収入レベルで給付額はゼロ。全受給者が所得比例年金と最低保障年金の合算で概ね7万円以上を受給できる制度に。
・13年の国会に法案を提出。
2現行制度の改善
・新年金制度の創設には一定の時間を要することなどから、新年金制度の方向性に沿い現行制度の改善を図る。
・消費税引き上げ後に消費税財源による国庫負担2分の1を恒久化。12年度の基礎年金国庫負担割合は歳出予算と「年金交付国債」(仮称)により2分の1を確保。必要な法案を12年通常国会に提出。
・13年度から消費税引き上げまでの取り扱いは引き続き検討。
・低所得者の老齢基礎年金や障害・遺族基礎年金に加算を実施。
・無年金者が納付した保険料に応じた年金を受給できるようにし、受給資格年数を現在の25年から10年に短縮。消費税引き上げ年度から実施。12年通常国会への法案提出を検討。
・高所得者の老齢基礎年金を調整する制度を創設。12年通常国会への法案提出を検討。
・マイナスの物価スライドを行わなかったことなどで2.5%本来より高い水準の年金額で支給している措置を12年度から3年間で解消、12年度は10月から実施。12年通常国会に法案提出。
・産休期間中の保険料負担を免除、将来の年金給付には反映させる。12年通常国会への法案提出を検討。
・厚生年金適用事業所の短時間労働者に厚生年金の適用を拡大。12年通常国会への法案提出を検討。第3号被保険者制度、配偶者控除の見直しとともに総合的な検討を行う。
・共済年金制度を厚生年金制度に合わせる方向を基本に被用者年金を一元化。公務員、私学教職員の保険料率や給付内容を民間サラリーマンと同一化する。12年通常国会への法案提出を検討。
・第3号被保険者制度は新しい年金制度の方向性(2分2乗)を踏まえ検討。
・マクロ経済スライドの適用について物価スライド特例分の解消状況も踏まえ検討。
・60代前半にかかる在職老齢年金制度について調整限度額を引き上げる見直しを検討。
・厚生年金の標準報酬の上限見直しを検討。
・支給開始年齢のあり方について中長期的課題として検討。
【その他】
・無収入の高齢者世帯が発生しないよう継続雇用制度の基準に関する法制度を整備。
・生活保護基準、各種福祉手当は物価スライドなどの措置で消費税引き上げによる影響分を手当額に反映。
・生活困窮者対策と生活保護制度の見直しに総合的に取り組むための生活支援戦略を12年秋をめどに策定。
・日本発の革新的な医薬品・医療機器の創出などの拠点となる臨床研究中核病院(仮称)を創設。
<税制改革>
【基本的方向性】
・今回の税制抜本改革の最大の柱は社会保障財源を確保するための消費税率引き上げ。幅広い国民が負担する消費税は高齢化社会における社会保障の安定財源としてふさわしい。
【消費税】
・14年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる。
・食料品などに軽減税率を適用した場合、高額所得者ほど負担軽減額が大きくなること、課税ベースが大きく侵食されること、事業者の負担が増すことなどを踏まえ今回の改革では単一税率を維持。
・消費税収(国分)は全額社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)に充てることを明確にし社会保障目的税化。地方の消費税増収分も社会保障財源化する。
・事業者免税点制度、簡易課税制度は中小事業者の事務負担への配慮から制度を維持。(個々の取引の消費税額などを示す)インボイス(荷送り状)制度は導入しない。
・値札などの「総額表示」の義務付けは、維持を基本とする。
・引き上げ分の消費税収の地方分は消費税率換算で14年4月から0.92%分、15年10月から1.54%分とする。
・住宅取得については一時の税負担の増加による影響を平準化、緩和する観点から必要な措置について財源も含め総合的に検討する。
・社会保険診療は非課税。医療機関などが行う高額投資にかかる消費税負担に関し、新たに一定の基準に該当するものに対し、区分して手当てを行うことを検討。これにより医療機関などの仕入れにかかる消費税については診療報酬など医療保険制度で手当てする。
【逆進性対策】
・所得の少ない家計ほど食料品向けを含めた消費支出の割合が高いため消費税負担率も高くなるという逆進性の問題も踏まえ、15年度以降の番号制度の本格稼働・定着後の実施を念頭に総合合算制度や給付付き税額控除など、再配分にかんする総合的な施策を導入。
・総合的な施策の実現までの間の暫定的、臨時的措置として、簡素な給付措置を実施。
【景気弾力条項】
・法案成立後、引き上げにあたっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応できる仕組みを設ける。
・消費税率引き上げ実施前に「経済状況の好転」について、名目・実質成長率、物価動向など、種々の経済指標を確認し、経済状況などを総合的に勘案した上で、引き上げの停止を含め所要の措置を講ずるものとする規定を法案に盛り込む。
【消費税以外の消費課税】
・酒税は類似する酒類間の税負担の公平性も踏まえ、消費税率の引き上げにあわせて見直しを行う方向で検討。
・地球温暖化対策税は12年度税制改正で引き続き実現を図る。
・自動車取得税および自動車重量税については、簡素化、負担の軽減、グリーン化の観点から見直しを行う。
【個人所得税】
・15年分の所得税から、課税所得5000万円超について45%の税率を設ける。特に高い所得階層に一定の負担増を求めることにより累進性を高める。
【金融所得課税】
・上場株式配当・譲渡所得にかかる10%軽減税率を14年1月から20%の本則税率とする。
【相続税】
・相続税基礎控除のうち定額控除を現行の5000万円から3000万円に、法定相続人比例控除を現行の1人当たり1000万円から600万円に引き下げる。
・最高税率を現行の50%(3億円超)から55%(6億円超)へ引き上げ、2億円超にかかる税率も引き上げる。
・一体改革の中で実現を図る。
【年金税制】
・年金受給者は給与所得者に比べ課税最低限が高いなど税制上優遇されている状況であり、世代間の公平性の確保も必要。年金収入に応じて控除額が増加していく現行の公的年金等控除の仕組みを見直すなど種々の方策を検討する必要がある。
【地方税制】
・財源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系を構築。地方法人特別税および地方法人特別譲与税は、一体改革にあわせて抜本的に見直す。
【改革スケジュール】
・本素案に沿った各税目の改正内容・時期を盛り込んだ法案を11年度中に提出する。
・50年以降、高齢化のピークを迎えることを考慮すれば今後も改革を進める必要がある。今回の改革に引き続き、少子高齢化、財政、経済の状況などを踏まえつつ次の改革を実施することとし、今後5年をめどに所要の法律上の措置を講じることを今回の改革法案の附則に明記する。
【政治・行政改革】
・議員定数削減や公務員総人件費削減など自ら身を切る改革を実施した上で、税制抜本改革による消費税引き上げを実施すべき。
・衆議院議員定数を80削減する法案などを早期に国会提出。
・独立行政法人改革、公益法人改革、特別会計改革、国有資産見直しなどに向け行政構造改革実行法案(仮称)を早期に国会提出。閣議決定ベースで可能な改革は直ちに実行。
・給与臨時特例法案、国家公務員制度関連法案の早期成立を図る。
4-1-1、消費増税などの税制抜本改革素案
・消費税:2014年4月に8%、2015年10月に10%
・税収(国分):全額社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)に
・引き上げによる増収の地方分:2014年4月0.92%、2015年10月に1.54%
・食料品への軽減税率は行わず、単一税率を維持
・経済指標、経済状況
5、論点
1、「本素案をもって野党各党に社会保障・税一体改革のための協議を提案し、与野党協議を踏まえ、法案化を行う。」とのことであるが、同素案は、法案化後、今年の通常国会において可決成立すると考えるか。成立しないと考えるのであれば、その理由はなにか。
授業における議論を踏まえた加筆(以下、同じ)⇒可決しなかった場合、これだけ議論されたのに、その結果なにも変わらなければ、国債価格の暴落が現実味を帯びることになる。
2、同素案は、所得の多い高齢者にとっては、かなり負担が増加するものとなっているが、それははたして、適当なのか。
⇒若年に非正規雇用者が増えている実態から、若年層の負担増は無理ではないか。
3、同素案で、問題視すべきことはどこで、その理由はなにか。たとえば、デフレといわれる現今の経済状況下で消費税率をあげることの功罪。
⇒4、現役世代の負担と給付に関する言及が少ないことを指摘された。たとえば、結婚せず、その結果、子どもがいない成年の場合、老齢に至らなければ病気をしない限り負担ばかりで、それにくらべて給付はあまりにも少なく、負担しているときは給付という恩恵にあずかれない。
それは、たしかにそうであって、そもそも社会保障とは、負担と給付は乖離している制度であることを指摘できる。
また、年金制度は実質的には賦課方式をとっており、純然たる積立方式ではないところから、そのような意見が出たものと考えられる。
6、おわりに
「大山鳴動して鼠一匹」との言葉があるが、今回の、社会保障・税一体改革で最も恐れているのが、この議論がなんの改革にも結び付かないことである。国会が始まっても、この改革に関して、有意義な議論が交わされてはいないようである。国会なのだから、一日も早く言論の府らしく、議論を交わしていただきたいものである。
また、現在のわが国の社会保障制度は、家族構成が標準化されていた時代に構築されたものなので、モデルケースが存在した。ところが、今日のように、結婚しない成年が増え、非正規雇用者が増大した社会状況には、対応していない制度となっていることも指摘できる。
弥縫策ではない、正しく抜本的な社会保障・税一体改革が待たれるところである。
【参考文献】
1、橘木俊詔「国民の倫理的志向と政府の大きさに対する考え方」(橘木俊詔[編]『政府の大きさと社会保障制度』−国民の受益・負担からみた分析と提言(東京大学出版会、2007年))所収
2、小西秀樹「マクロ経済学から見た社会保障」、駒村康平「社会保障のミクロ経済学」(宮島洋・西村周三・京極高宣[編]『社会保障と経済2 財政と所得保障』(東京大学出版会、2010年))所収
3、橘木俊詔『安心の社会保障改革』(東洋経済新聞社、2010年)
4、西沢和彦『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社、2011年)
「他の履修者の発表内容から学んだ内容の盛込み」
「平成の大合併」
今日の全国の市町村数は、1,719(市787、町748、村184)である。これは、市町村が平成11年3月31日に3,232あったことから、約47%の基礎自治体が平成のうちの13年間で日本から消失し、合併されたことを物語る。
翻って日本が近代化した明治時代の、明治21年に市制町村制施行される前は、当時の基礎自治体は、71,314あった。以後、明治、昭和、平成の大合併をへて、その数は約40分の一に縮減したことになる。このように、近代化とともに、その基礎自治体が急減した国は、先進国の中では、わが国以外にはないもののようである。フランスでは、革命当時と今でも基礎自治体の数においてそれほど大きな差異は生じていないし、アメリカにいたっては今でも基礎自治体は増えている。
ここで、平成の大合併の特徴をみると、次に挙げる5点にわたって指摘できる。
1、合併特例法による財政支援策が効果的だった
2、「市」にくらべると圧倒的に「町村」数が減少した
3、このうち、「村」のなくなった県ほど、市町村の減少率が高い
4、市町村の減少が必ずしも人口規模の拡大に結びついていない
つまり、合併が進んだからといっても、法律上、本来「市」の人口要件とされる5万人に達しない市が7割を占めている。
5、今回の合併で基礎自治体の適正規模が確保されたかどうか不明
「明治の大合併は小学校を持てる800人以上を、昭和の大合併は中学校を持てる8000人以上を目安にしたが、今回は何の数値目標も示されていない」 との指摘がなされているように、平成の大合併には、中央政府による明確な指針は示されていないようである。
累積する政府の赤字によって、いままでのように国が地方の面倒をみられないから、自治体の財政規模を大きくして自助努力を促したい、あるいは、地方分権の流れにのって地方公共団体はみずからの合併をおのずから決めるべきであるとの、中央政府の内に秘めた思いは透けてみえるようなところがある平成の大合併であるが、それがなんらの文書でも確認できないところにあるもどかしさを筆者は感じてしまう。
いずれにしろ、後世の研究者は、平成の大合併をどのように評価するのか楽しみである。
「地域自主戦略交付金」
国から地方への「ひも付き補助金」を廃止し、基本的に地方が自由に使える一括交付金にするとの方針の下、今年度に創設された、地域自主戦略交付金であるが、平成24年度は、政令指定都市に一括交付金を導入するとのことである。
それを速やかに、一般市にも導入してもらうことを、多くの国民は期待しているのではないだろうか。少なくとも、多くの市の(名称は多岐にわたるであろうがとりあえず)財務部はそれを期待しているものと推察される。