2001年度「立教大学学業奨励奨学金」提出論文(2,000字以内)
【目的】勉学意欲、人物ともに優れた学生の学業を奨励することを目的とする奨学金
1.[最も興味をもった研究テーマ]
ユニバーサルデザイン(UD)を実現するために資する経済学。
2.[その設定理由]
昨年から、JR東日本東京支社(以下JRと略す)管内における多くの駅構内で、工事中の箇所が目立つ。これはほとんどの場合、昨年11月より施行された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」、いわゆる「交通バリアフリー法」によって、国土交通省枠の予算を確保したための工事である。JRはこの予算を活用して、首都圏50km圏内にある駅の80%にエレベーターやエスカレーターを設置することにした。
また、帝都高速度交通営団(以下、営団)では、昨年度だけでも29の駅にエレベーターを新設した。全部で135ある駅のうち、平成11年度までは30の駅に設置したに過ぎなかったのである。その営団が昭和2年に開業してから、72年かけて30の駅にしか設置しなかったのにも拘らず、僅か1年でそれに匹敵する台数のエレベーターを設置することができたのである。この一事を以てしてもそれまで、交通機関でのバリアフリーが如何に閑却されてきたのかを証するとともに、この「交通バリアフリー法」が、エレベーターの設置にいかに資するものが大きかったのかは、改めての論を俟たないところであろう。
あるいは、公共バスに目を転じれば、近年急速な勢いで、低床化して乗降口の階段を無くしたノンステップバスが増加していることにも気づかされる。これは、昨年度予算で当時の運輸省が補助事業費として28億円の予算を獲得したことによる。その結果、昨年度までに4〜500台のノンステップバスが配車された。通常のバスが1300〜1500万円なのに比し、ノンステップバスは2300〜2500万円と約1000万円も高額なため、補助金なしでの購入は困難であったが、補助事業費を得たために、劇的にノンステップバスを増車することが可能になったのである。
以上のことからも分かるように、バリアフリーを実現するためには、通常の費用以上の負担が、設置主体者に要求される。
しかし、ここまで安易にバリアフリーという言葉を使ってきたものの、バリアフリーという概念を使う限り、そもそも何がバリアなのかという、本質を提示しなければいけないが、それにはいっさい言及してこなかった。また、ここにバリアフリーという概念が包摂する脆弱さがある。
ために、ノースカロライナ州立大学センターフォアアクセシブルハウジング(1994年にセンターフォアユニバーサルデザインと名称変更)所長だったロナルド・メイス教授が中心になって、人々を説得できるアプローチとして考えだされたのがユニバーサルデザイン(UD)である。
そこで示された概念は、障害のあるなしに拘らず、だれにでもより良いもの、反論できないものを具体的に例示することで、人々の意識を変えようというものである。
よって、研究テーマをバリアフリーではなく、ユニバーサルデザイン(以下、UD)としたのである。
3.[今後の計画]
まず、小稿ではUDの設置主体を公共団体に限定する。すると、どうしても考慮しなければいけないのが、国と地方公共団体を併せた累積債務が、約666兆円に達しているという日本の財政における現状である。
公共事業の評価をする場合、一方では、無駄な公共事業を削減し、その財源で税負担の軽減や財政赤字の削減をすべき、あるいは、福祉予算を増額すべきだという意見がある。他方では、公共事業が地域経済を支えている効果を重視して、その見直しに反対する声も大きい。そもそも、公共事業の拡大とそれを支える財政上政治上の構図が、今日の日本財政を危機的状況に陥らせることになった元凶である。だからといって、UDに見るように公共事業のすべてが「悪」ではない。わが国が戦後50年の間に世界有数の経済大国に成長した大きな理由は、公共事業を積極的に推進してきたからに他ならない。公共事業によって有益な社会資本が整備されることは、私たちにとって大きな便益をもたらす。つまり、公共事業の成果は大いに認めつつ、その問題点を大胆に見直す姿勢が今、切実に求められているのである。
そこで、2000年4月に経済学部3年次に編入学して以来、1年有余にわたって勉学してきた成果を問うために、私が生まれ育ち、また、現在も在住している町田市における来春2月の市議会議員選挙に立候補し、UDによる街作りを広く提言する所存である。UDによって実現されるのは、すべての人が住みやすい都市であると、信じているのである。