町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

早稲田大学 社会科学部 ゼミナールⅠ「地方自治と行政」『分権改革』大学での活動

2005.09.30(金)

【箇所】早稲田大学 社会科学部専門科目
【科目】ゼミナールⅠ《専門学習への導入》
【テーマ】地方自治と行政

【関連科目】行政法(行政争訟法)、行政学
【開講学期】2005年度 通年[4単位]{履修定員15名}
【担当】大久保 皓生 教授〈中央学院大学 法学部〉
【テキスト】『地方分権下の地方自治』(公人社刊)第1部 Part One 制度の改革のうち、「分権改革」の章をレジュメ化したもの。同章の分担執筆者は、本田 弘〈日本大学〉教授。なお、本書は2002年4月に発行されたものであるため、一部の記述は今日からみると、時期的に古くなっているものもある。

1−1 「分権改革」執筆:本田 弘

1 地方分権の意義 pp.2-5
 地域住民の自己決定権の拡充
 地方分権推進委員会は、明治期以来続く日本の中央集権型行政システムでは、変動する国際社会への対応、東京一極集中の是正、個性豊かな地域社会の形成、高齢社会・少子化社会への対応が、それぞれ、充分かつ的確、適切、迅速に対応できなくなっているために、徹底した地方分権の推進が必要なことである、と勧告している。

 地方分権の推進には、地域住民の自己決定権を拡充することと、国と地方自治体との対等・協力関係への転換が不可欠であることは、論を俟たない。

 明治期以降、先進諸国への仲間入りを目指すcatch up型の政策を遂行するために日本では、全国均一の計画をたて、国が地方自治体に対して、一方的に関与しながら施策の実施を図ってきたのであり、また、事実それによって効率的に日本の国力は増進された。

 ところが、GDP世界2位の地位を確立し、豊かさを謳歌する自治体が都市部を中心に増えてきたのも事実であるが、それに比して、過疎化し人口の流出に歯止めが利かず、衰退する村落が増えているのも現実である。

 このように多様化した自治体間の集合体である地方自治体は、もはや、中央集権型の行政システムでは、活力に満ちた地域社会を創造する方策としては、これが機能的ではなくなってしまった。

 言葉を変えていえば、日本の地域を見ると、明治以降各地域は同等に発展したわけではないのである。たとえば、東京の千代田区と北海道の網走市では、その地域性に余りに大きな懸隔が生じているために、同様な施策を実行しても、その効力に大きな開きが出るようになってしまった、というのが戦後60年を経ての日本が置かれた現実なのである。

 ここにおいて日本は、もはや中央集権型の行政システムでは、各地域の問題点への円滑な対応が困難になっているために、地方分権を推進し、地方自治体の自主性・自立性が求められるようになっているのである。

 ただ、この地方分権は、「国の財政再建のため国庫負担を減らすことから始まった点に悲劇がある」という、神野直彦(東大経済学部教授)の指摘(朝日新聞05年8月22日)は、重要である。

 中央集権型行政システムの変革
 明治期以降続いてきた中央集権型行政システムを変革して、地方分権型行政システムへ移行するためには地方にとって必要かつ、妥当な権限を地方へ委譲するとともに、規制を緩和する措置が必要である。

 ここにおいて、改めて概念規定をする。この場合の中央とは、center、つまりcentral governmentを指し、地方とは、localのことであって、provincialのことではない。つまり、東京都もlocalなのである。ちなみに地方自治体は英語では、local governmentとなる。

 自主課税権を行使する余地が広がることに伴い、地域住民の代表機関として地方自治体の最終意思の決定に与る地位にある地方議会と首長の責任は格段に重くなる。

 2000年4月1日に、地方分権一括法が施行されたことによって、地方税法にない法定外普通税を新設する場合、これまで自治大臣(現在の総務大臣)の許可が必要であったが、事前協議制に変わり、新税が作りやすくなった。

 また、環境保全など税収の使途を定めた法定外目的税も創設され、自治体の課税自主権も拡がった。

 そこで、東京都は外形標準課税を一部の銀行に課したところ、銀行に提訴され、二審での敗訴を受け銀行と和解し、外形標準課税を撤回したことがある。

※ 外形標準課税=nonincome-based taxation=所得の多寡を基準に課税するのではなく、外見的に明らかなものを課税標準に選んで課税すること。

p.4にあるとおり、地方分権とは、「地方がそれ自体として公共行政のための諸施策を企画、立案、作成、実施、評価して地方公共団体を維持発展せしめる思想であり制度なのである。」
 逆に言えば、地方分権が確立する以前は、地方自治体は中央政府の下部機関という側面があったことは、否定できない事実である。

 国と地方公共団体の対等・協力関係への転換
 地方分権は、あたかも国と地方が上下・主従関係にあったものを、対等・協力関係へと転換して初めて、真に地方分権が機能する。

 その意味では、明治憲法下の日本においては、地方分権は想定すらしていなかった。それが証拠に、大日本帝国憲法の中には、地方自治に関する記述は一切ないし、知事も内務省の役人が出向というかたちをとっていた。

 それは、19世紀後半の帝国主義時代において開国した日本は、欧米列強からの侵略に屈することなく、アジアにおいてその覇権を確立するために、殖産興業を成功させ、産業革命を実施することが何にもまして重要な施策と中央政府が認識していたために、地方の分権を認めず、中央集権主義により、その命題を達成することが最優先課題とされていたからである。

 それが戦後見直され、現行憲法において初めて、「第八章地方自治」の項目が設けられ、知事も選挙によって選ばれるようになり、地方自治の実現が図られるようになった。

 ただ、地方自治の実現のためには、新たなルールの策定が不可欠となる。それは具体的には、書面主義の原則、手続の公正・透明性の確保、事務処理の迅速性の確保が挙げられるが、ここにおいて特に、行政指導の原則撤廃が望まれる。

2 自治事務と法定受託事務 pp.5-11
 機関委任事務の廃止
 前述の地方分権推進委員会の勧告を受けて策定された地方分権推進計画に基づき、関連法が改正され、2000年4月1日に地方分権一括法が施行された。なおその際、地方自治法をはじめ475本の関連法が一挙に改正された。

 その際、最も肝要な改革だったのが、中央集権型行政システムの象徴とも言われ、地方自治体を中央政府の下部機関とみなして仕事をさせる、機関委任事務を廃止したことである。

 ちなみに、知事及び市町村長が処理していた項目数において、都道府県の事務の7〜8割、市町村の事務の3〜4割が、この機関委任事務であった。

 機関委任事務が廃止されたことによって、地方自治体は、従来からある「公共事務」、「団体委任事務」、「行政事務」の3種類の事務が「自治事務」とされ、廃止されることがなく存続する機関委任事務が「法定受託事務」として、地方自治体が処理する事務となった。

 自治事務
 機関委任事務制度によって、中央政府の事務を処理していた従来からすると、地方自治体が処理する分野は大幅に拡大された。

 法定受託事務
 法定受託事務は、以下のように説明することができる。
 事務の性質上、その実施が中央政府の義務に属し中央政府が直接執行すべきではあるが、国民の利便性または事務処理の効率性の観点から、法律またはこれに基づく政令の規定により、地方自治体が受託して行うこととされる事務。
 例としては、戸籍事務、国政選挙、旅券の交付、国の指定統計などが、挙げられる。

 条例制定権
 自治体は、憲法第94条において条例を制定することができる。
 ところが、地方自治法第14条によって、法令上に委任規定がないかぎり、自治体は条例を制定できないという解釈がある。

 しかも、法令の機能領域とは、法令によって明示された領域のみならず、黙示的にも当然機能していると考えられる領域を含むとされる、「法令の先占理論」が、自治体の条例制定権を縛っている現実がある。

3 国の関与と権限移譲 pp.11-14
 関与の定義と原則
 いうまでもなく、分権化されたからといって、地方自治体が中央政府からなんら関与されないわけではない。
 ただ、従来からの機関委任事務にかかわる包括的な指揮監督権が廃止され、新たに設定する関与の基準類型に沿って必要最小限のものに限定されるようになった。

 なお、中央政府と地方自治体の間に紛争が生じた場合、それを処理する公平・中立な第三者機関として「国地方係争処理委員会」が設置されることとなった。

 権限移譲
 中央政府の権限下にあった、機関委任事務制度の廃止、必置規制の緩和、などが重点的に行われた反面、権限移譲や税源の移譲には本格的に踏み込まれずに終わった。

 なお、中央省庁のうち、権限移譲に最も消極的だったのは、環境省であった。

4 地方議会と住民参加 pp.14-18
 地方議会の活性化
 地方議会の活性化のために、議案提出要件と修正動議の発議要件が緩和された。

 議員定数の見直しと条例定数制度
 従来の法定定数制度を廃止し、地方自治体が自ら議会の議決を経て条例により、議員定数を定める条例定数制度を採用することとしたが、その際、人口区分ごとの上限数の範囲内を求められることから、上限付条例定数制度とよばれる。
 ただ、〈注〉(4)において、東大の大森彌名誉教授が指摘するように、「なぜ一定数を減らすのか合理的な説明は乏しいようである。」

 そもそも、議員定数を減らして最も利益を得るのは、現職の議員である。したがって、自分の議席を守り、新人議員の芽を摘むために、議員定数を減らす例も見られる。

 住民参加の機会と手段の拡大
 地方分権の狙いは、地域住民の自己決定権を拡充し、あらゆる階層の住民参画の拡大によって民主主義の活性化をもたらすことも意図されたのであるが、それを達成するためには、今まで以上に、市民による自律的な議会活動や政治活動への参加が要請される。

 その結果、参加せざる階層への、行政サービスの低下は、免れ得ないものと思われる。