町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

早稲田大学大学院 法学研究科「医療制度と法」『公立病院における医師不足とその解消策について』大学での活動

2009.07.21(火)

【箇所】早稲田大学大学院 法学研究科 民事法学専攻
【科目】医療制度と法【開講学期】2009年度 前期[2単位]
【担当】島崎 謙治 教授〈政策研究大学院大学〉
【リポート題目】公立病院における医師不足とその解消策について
【留意事項】「医療制度と法」のレポートである以上、社会保障一般ではなく、必ず医療もしくは医療制度と関係づけること。例えば、福祉国家論や社会保険論を取り上げる場合でも、一般論にとどめず必ず医療もしくは医療制度との関係につき論述すること。
【分量】5,000字から6,000字程度を目安に作成してほしい。

目次
1、問題意識
2、町田市内の医療資源と町田市民病院
3、新臨床研修制度と医師不足
4、医師不足への対応策
5、結論

1、問題意識
 筆者は、3年前から町田市議会議員となり、議員としての活動を行っている際に(議員になる以前からもそうであったが)、市民からの多くの要望をきくなかで、町田市内唯一の公立病院である、町田市民病院(以下、「市民病院」という場合がある。)の充実を求める声を、じつにしばしばきくこととなった。

 それを具体的に記すと、主に、救急医療体制の充実と、開業医が少ない特定の医療分野(産科、小児科等)を公立病院である市民病院が補完することに関する要望であった。

 しかし、同病院は、2008年9月から、小児科医師の不足により小児救急医療を休止したことがある。その際の、市民の反撥は少なくなく、市民病院が医師の確保に奔走した結果、その確保に目途がたった2009年の4月11日から、救急車による搬送、市内の開業医及び準夜急患子どもクリニックからの紹介に限定して小児救急医療を再開した経緯がある。

 これは、いうまでもなく、医師不足の影響を受けた結果である。
 この医師不足という問題は、なにも町田市一市に限った問題ではなく、日本全国に広く見られる事態であることは、言を俟たない。 

 しかし、筆者は先に記したように、町田市議会議員であるのだから、この問題を放置できるものでは当然ない。

 また、地方自治法1条2項につぎの文言があることからも、一議員として、この問題は看過することはできないのである。
1条の2 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。 

 本稿においては、まず、当市民病院の概要を明らかにした後、同病院の医師不足の状況と、医師不足を招いた一つの要因である、新臨床研修制度に触れる。
 その後に、医師不足解消策について、考察をめぐらせる。

2、町田市内の医療資源 と町田市民病院
 町田市の医療施設は2006年3月現在、病院が19施設、一般診療所が290施設、歯科診療所が218施設であり、前回保険医療計画策定時の参照値である、1997年と比較して、病院数は1施設減少、一般診療所、歯科診療所はそれぞれ、46施設、34施設増加している。

 病院の種別にみると、一般病棟が2病院減少し、精神病院が1病院増加している。また、療養型病床群を有す病院は19病院中8病院と、1997年から7病院増加した。病床については、1997年から約130床増加しており、一般病床、精神病床ともに増加している。しかし、人口10万人対の一般病床は、466.1床で、2004年の東京都全体の値の7割程度の水準となっている。

 診療所については、上述のとおり増加傾向が続いているが、一般診療所、歯科診療所の人口10万人対施設数は、それぞれ、70.8施設、53.2施設にとどまり、2004年の東京都全体の値と比較すると、1997年から大きな変化はなく、6〜7割の水準を超えていない。

 同計画で、市民病院が地域から求められている医療機能を確保する項目として、次の3点を挙げている。「1、二次医療を確保します。2、救急医療を確保します。3、周産期センターや緩和ケア病棟などの整備を図ります。」

 なお、周産期センターに関しては、平成20年の新棟完成に伴い、日本周産期・新生児医学会(母体・胎児)の暫定指定研修施設に、日本周産期・新生児医学会(新生児)の新生児部門暫定補完研修施設となって、新たな取り組みが始まっている。緩和ケアに関しても、新棟完成・開設に合わせて新たにその事業を始めた。

 また、市民病院は、入院基本料については、厚生労働大臣が定める基準「一般病棟7対1入院基本料」を行っている医療機関であり、病床数は441床(一般病床)を有し、そのうち特別集中治療室が6床、新生児特定集中治療室が6床ある(日本周産期・新生児医学会(母体・胎児)の暫定指定研修施設、日本周産期・新生児医学会(新生児)、新生児部門暫定補完研修施設)。
 ちなみに、町田市内に二次救急医療機関は8病院あり、市民病院もそのひとつである。

3、新臨床研修制度と医師不足
 医師法が、平成12年に改正され、大学医学部卒業後の臨床研修を必修とする、新たな臨床研修制度が始まることとなった。同法で新臨床研修制度の運用に該当する箇所は、下記のとおりである。

16条の2 診療に従事しようとする医師は、2年以上、医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならない。

 同法の改正にともない、医学部卒業後2年間の臨床研修は、2004年度から必修となった。このことにより、その翌年の2005年4月現在、2168の臨床研修病院で7526人の医師が、「患者を全人的に診ることができるよう、(略)研修に専念している」。 

 「新しい臨床研修制度が始まるまでは、大学を卒業した医師の九割が出身大学をはじめとする大学附属病院の医局に入局し、大学附属病院で二年程度の研修をし、その後、医局の主宰者である教授が実質的な人事権を持って、関連する地域病院などへの配置を行ってきた。
 若手医師の研修先の決定にあたっては大学の医局の教授の権限が非常に大きかった」 とする指摘があった。

 それが、「新臨床研修制度のもとでは、若手医師が研修先を自ら選択できるようになった。公開公募制で研修医と研修病院を全国一元化でマッチングできるような仕組みに変え、研修目標の設定とその達成を明確に評価することで、より研修の透明性と質を上げるという狙いがある」 と指摘し、この制度を導入するにあたっては、「これまでの研修制度は、地域医療と接点がなく、専門的な医療分野の研修を行うことが強かった。
 『病気を診て人を診ないような医師が育ってしまう』という批判もあった」(厚生労働省医政局総務課長)ことに対する対応と考えてよいであろう。

 それを、「これまでの反省に立ち、新しい研修制度の最大の狙いは、患者を全人的に診るプライマリ・ケアができる医師を育成することである」 と指摘するものがあるが、厚生労働省は、「臨床研修は、医師が、医師としての人格を涵養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身に付けることのできるものでなければならない」とその基本理念で謳っている(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/rinsyo/)。

 この新臨床研修制度導入にともない、「これまで毎年一定数であった医局の入局者が激減し、各地の大学病院では二年間ゼロになってしまう医局もでてきた。その結果、大学病院では病棟勤務をはじめとする大学病院の診療を支える医師の確保が困難になった。

 以前は労働力として卒業直後の研修医を多く抱えてきた大学病院であったが、二〇〇四年度以降は、人手不足となった大学病院の医師確保のために、関連病院へ派遣した医師を引き上げはじめた。これが医師引き上げの第一波であるが、それでも当時はまだなんとか地域の病院は持ちこたえられる状態だった。

 さらにそれから二年たった二〇〇六年、各地で二年間の初期臨床研修を終えた研修医の多くは、大学関係者の予想を裏切り大学の医局に戻ってこなかった。引き続き後期研修についても、大学以外の研修病院でレジデント医として研修することを選択したのだ。(略)当初、多くの大学病院関係者は二年の初期研修後の大部分の若手医師が大学病院に戻ってくると楽観視していたのだが、その望みは絶たれ、慌てることになった。

 大学病院の日々の診療を維持していくためには、派遣先の病院からさらに多くの医師を引き上げなければならなくなった。この引き上げ第二波が(略)全国各地の医療に大きな打撃を与えたのだ」。 

 その影響を直接受けたのが、市民病院のような公立病院であった。「それまでは大学教授を頂点とする医局の力が強く、そのため新人の臨床研修先は、ほとんど教授の一存で決められていた。そのことがかえって地方の病院にはプラスに働いていた。教授とのパイプさえ維持していれば、医師は自動的に送り込まれてくる。ところが新臨床研修制度では、臨床研修先は医師本人が決めるように改められた」 。
 その結果、「新臨床研修制度では、研修医が自由に研修先を選べるようになり、魅力ある市中の研修病院に人気が集中し、旧態依然とした制約の多い大学の医局に残る若手医師が激減して、大学は地域に派遣していた医師を引きあげはじめた」 のである。

 それを、つぎのように指摘するものもある。「昨今の医師不足の原因は新医師臨床研修制度にあるとメディアは言うが、そうではない。
 明治以外延々と続いてきた大学医局による医師の支配・供給制度が、音を立てて崩れつつあるのだ。これから大混乱が続く。」 つづけて、「今、「医師不足」と騒いでいるが、正確には「勤務医不足」であり、その中でも「自治体病院の勤務医不足」が最大の問題点なのである。首長や議員の方々は、なぜ自治体病院から医者が逃げ出すのかよく知っていただきたい。

 それは、どんな経営母体の病院と比べても自治体病院は過重労働の場であるからである。民間病院でも公的病院でも、国立病院でさえも、救急医療や小児医療など大変な分野は「できません」と言って逃げることができる。しかし、住民の税金をつぎ込んで運営される自治体病院は、最後の最後まで責務を担わねばならない」と指摘するが、この部分では、国立病院は自治体病院と同じように、「税金をつぎ込んで」いるのに、なぜ、自治体病院のみ、「最後の最後まで責務を担わねばならない」のかが不明ではあるが、自治体病院の医師不足の窮状は指摘されるとおりである。

 それについて、川渕孝一は、「なぜここまで”大学離れ”が起こったのか、その理由は定かではないが、「医学博士」を取得しても何の見返りもないと考えるドライな医師が増えたこと、地域の病院は研修が充実しているうえ、思いのほか研修医を大切にすることなどが関係している」 と指摘し、臨床研修医が、大学医学部附属病院を臨床研修の対象として選択しない理由を、「定かではない」と記している。

 それに関しては、奥野修司が「医局はヤクザの組織に似ている」と指摘する。つまり、「ヤクザの世界では力が支配するが、医局では権力と権威がそれにかわる。この権力と権威によって、医師が僻地にも配置された。その意味では地域医療に貢献してきたのだが、選択が自由になると、そっぽを向かれたというわけである」 と、医局制度を批判する。

 たしかに、川渕が指摘するように、理由は定かではないのかもしれないが、事実として、奥野が指摘するように、「選択が自由になると、そっぽを向かれた」医局である。

 その結果、医学部を卒業した臨床研修医が、大学医学部附属病院を臨床研修の対象として多くの場合選択しない事態は、短期間では変わらないものと考えられる。

 すると、「大学としては限られたパイ(医局員)を戦略的に配置するために、選択と集中を考えており、今後、特徴のない病院に関しては診療科ごとそっくり総員撤収するケースも増加するであろう。泣いて頼んでも医師が来ないとなった病院はどうなるのか」。 

 「自治体病院に勤務する医師たちは、以前のように大学当局からの派遣が復活することを期待して、少ない医師数でハードな仕事を一生懸命こなしていた。

 しかし、相当数の医師が、大学当局から新しい応援医師が来ないことに希望を失い自治体病院を辞め、開業やより勤務条件が過酷でない病院に移っていった」 のである。

 こうして、医師は燃え尽き、病院を後にする。これは、患者にとっても、病院にとっても望ましくないことは明白である。

4、医師不足への対応策
 「「この地域は地域医療連携に先進的に取り組んでおり、患者さんを地域で診ていくという取組みを全国に先がけてやっている。全国的にも先駆けであまり例がないので、ぜひここで経験を積みたいと思ってやってきた」

 こう語る古垣斉拡医師は2007年4月に、奄美大島の診療所から東金病院に移ってきた7年目の内科医だ。(略)地域医療の担い手になることを志し、病院と診療所がどのように連携したらよいのか、平井のもとで勉強したいと東金病院にやってきたのだ」 

 これは、千葉県立病院群の後期研修プログラムの一環として、地域病院を基盤にした総合医・家庭医育成のための教育研修の場をつくることにした、新しい医師育成プログラムに賛同し、参加した医師の声である。その名称は、古垣医師の提案で「わかしおネットワーク」と命名された。

 その前段階として、千葉県では、八つの県立病院(がんセンター、救急医療センター、精神科医療センター、こども病院、循環器病センター、東金病院、佐原病院、リハビリテーションセンター)の多様な機能を活かした、八病院スーパーローテート方式による初期臨床研修を行ってきた。

 「全国でもあまり例のないこの「病院群方式」の臨床研修プログラムとは、研修医が一〜数ヶ月ごとに各病院をローテーション方式で回ることにより、ひとつの病院では学べない高度専門医療や地域医療をバランスよく学べるというものだ」 

 なるほど、これはなかなか素晴らしい臨床研修プログラムだと考えられる。
 相互の病院間で補完的に、足らざる部門を研修できるからである。なかでも重要なのが、地域医療と地域保健に割かれた2ヶ月の期間である。このことによって、「地域の医療連携の必要性を頭ではなく肌で感じてもらい、そうした研修医たちのなかから地域医療を担う人材が育っていけば、この地域の医療もより充実したものに発展していくだろう」 と平井愛山が指摘するのも、もっともである。

 そこに見られるのは、「総合的な診察能力を持つ医師は「地域で自前で育てよう」という発想」 である。医師を地域で育てる、という視点は他の地域でもないこともないが、そこに、「総合的な診察能力を持つ医師」を育てる、という発想は他の地域では、なかなか見られないことと考えられる。

5、結論
 前述の、千葉県立病院群後期研修プログラム「わかしおネットワーク」が育てる総合医・家庭医は、大きく以下のふたつを目指している。

1、地域中核病院の内科部門(外来・入院・救急)を支える能力を有すること。

2、地域医療の視点を持って、診療および地域活動にあたる能力を有すること。

 たしかに、新臨床研修制度の導入が、医局の医師不足をもたらし、それによって医局がそれまで各地の病院に派遣していた医師を撤退させたことによる、各地の病院の医師不足は、由々しき事態である。

 しかし、それを奇貨として、千葉県の八病院スーパーローテート方式による初期臨床研修や「わかしおネットワーク」を構築することによって、全国の大学医学部学生から、注目を集めるような、斬新にして待望のプログラムを構築した千葉県における病院群の取組みは、評価すべきものと筆者は考える。

 このプログラムで肝要なのは、研修医のなかから地域医療を担う人材が育っていけば、その医師はその地域から決して「逃散」することなく、当該地域で長く医療活動に専念することが強く、予測できるからである。

 したがって、上述のプログラムは、その地域の医師不足解消に資するものであると、筆者は固く信じるものであり、同プログラムと同様のものを策定することが、医師不足に対する適切な対応策のひとつであると考えられる。