一橋新聞部が発行する「一橋新聞」(平成24年12月25日)の連載記事、『この人』欄にらん丈(2013年修了)が採り上げられたので、ここにその全文を掲出いたします。
「大学の学問は勉強であり、息抜きなんだよ」
ある時は寄席で観客をにぎやかし、またある時は和服からスーツに装いを変え町田市議会議員として熱弁をふるう。そしてまたある時は本学の国際・公共政策大学院で学ぶ学生として勉学に励む。これら3足のわらじを履きながら精力的に活動しているのが三遊亭らん丈さんだ。
「落語家で議員をやってる人は4人もいるしね」と、自らの肩書きをさほど特別なことでもないかのように話すらん丈さん。最初に足を踏み入れたのは落語の世界だった。
「なんで落語家になったのかっていう質問は典型的愚問だね。好きだからやってるに決まってるじゃない」。31年前、大学卒業を目前に控えたらん丈さん。卒業前に、内定先で社員研修を受けたものの、2日で辞めることを決意した。就職留年もできない状況でらん丈さんが選んだのは、幼いころから好きだった落語の道だった。
それまで落語研究会といった団体に所属していたわけではなく、当然落語を演じたこともなかったが、らん丈さんは思い切って三遊亭圓丈師の許へ弟子入りし、96年には真打に上り詰めた。「だって落語しかなかったんだから、そりゃ必死に落語やるよ」
落語家として順調に活動を続けていたらん丈さんだったが、交通事故に遭ってしまい足を骨折。このことが人生の岐路になった。「痛くて眠れないなんて初めてのことでさ、そしたら『自分の人生ってなんだったんだろうな』とか『人の役に立ってから死にたいな』とか、普段考えないようなこと思っちゃったんだよね」と、政治を志したきっかけの一つを明かした。そして06年、初当選を果たし、現在も町田市議会議員として活動している。
議員を目指すにあたり、らん丈さんは立教大学経済学部に編入学し、再び学生となった。「さすがに勉強しなくちゃいけないと思って。まさかこれ以上大学に入ることはないだろうと思ってたんだけど」と言いつつ、今度は早稲田大学社会科学部に学士入学。
さらには早稲田大学大学院社会科学研究科、同大学院法学研究科と、次々に学位を取得していった。そして現在は本学国際・公共政策大学院に在学し、学問を続けている。「大学っていう、ある程度世間と隔絶された空間で学問をやるのは、勉強であるとともに、息抜きなんだよ」
落語家と市議会議員、2つの顔を持ちながらも学問を続けるらん丈さん。「議員としての責任を全うしたら、あとは24時間プライベートに使って生きたいね」と語るらん丈さんの口ぶりは、軽妙ながらも深みを感じさせるものだった。遠野祥吾記者(一橋大学社会学部)