『季刊芙蓉』第76号・2008年夏
居並びて日向ぼこする猫と犬
物捨てる喜び見つく春の闇(★)
捨てられぬ背広着て行く春隣
眼を醒まし数かぞへをり冬の夜
草の芽を見つめ嗅ぎ掘り始む犬
寒明の道に落ちゐし帽子拾ふ
眠られぬ日々続きをり寒戻る
電車の席譲りて立ちて梅を観る(★)
居並びて日向ぼこする猫と犬
物捨てる喜び見つく春の闇(★)
捨てられぬ背広着て行く春隣
眼を醒まし数かぞへをり冬の夜
草の芽を見つめ嗅ぎ掘り始む犬
寒明の道に落ちゐし帽子拾ふ
眠られぬ日々続きをり寒戻る
電車の席譲りて立ちて梅を観る(★)
席譲る人の瞳に映る茱萸
奇跡的に長き胴持て余す冬
瓦煎餅嫌ひなままに冬に入る(★)
怪我の治療で失神したり冬の昼
富士を見て不死想ふ冬至の日
ふと実存を思ひ做す初景色
上機嫌の師に戸惑ひつ大晦日
捲りしカレンダーに見惚れる年の夜
風鈴売ゆつくりと天秤棒下ろす(★)
肩越しに見るアシカショー夏の午後
妊婦にも隔てなく降る驟雨
少し前屈みで歩む炎天下
夏休みの課題は『破戒』読むことに
夏を退治し自らを誉めやうか
嫌ひな人を誉めそやしたり秋の風
ミス日本かほどに奇麗秋めきて
散髪の帰りに立ち寄る菖蒲田
喪服だろうがシャーベット頂きますよ(★)
短夜に迷惑メイル征伐す
眼鏡掛けたまま午睡に誘はる
袷てふ季語の不思議を語り居り
上野公園緑雨のレオナルド展
消防活動終へて麦茶を振舞はる
消しゴムで答案破れ受験生(★)
目が腐るほど番号見詰む受験生
少し多目にバター塗る三ヶ日
春ショール外す仕種の軽やかに
背の違う遺弟の靴履き苗木植う
しじみ売しみじみと釣銭数う
年重ね頑なになり花の冷
整理しかねたネクタイ締めて麗らけし
深まらぬ議論の傍らちちろ鳴く
酒呑むと卑しくなりぬ十三夜
月光を頼みの消防団訓練(★)
鼻に惚れてもそれも恋冬の朝
書き留めぬままに成さぬ句数え日の
リスかじる胡桃味はふこともなく
美しき人風邪声も美しく
大根の肌さすりつつ通話中(★)
美人は口大きと知れりパリー祭(★)
夏木立ベンチの上の文庫本
帰省から戻りし絵日記白きまま
図書館は休館晩夏の受験生
昼寝人読みさしの本従えて
夏木立木漏れ日の滝かいくぐり
扇風機・エアコン嫌い水を呑む
余りにも小さき教会蕪のごと
菜の花にふと立ち留まる犬二匹
薫風を受けて墓地を全力で走る
線引きつつ教科者を読む新学期
音立てず蕎麦食う外国人梅雨入
梅雨に入り時計を変えて旅に立つ
寝酒呑んでも眠られぬ男梅雨
傘捨てて抱き合ふ二人梅雨最中(★)
人絶えし海見たくなり年の暮れ
父の遺品の義歯に見入っている師走
聖夜のみ定刻前に教会へ
初夢で亡き弟にくすぐられ(★)
亡父(ちち)の飲み残しの酒を飲む冬至
八雲旧居で春の雨垂れ聞いており
竜天に昇りバッジを確かむる
教科書の匂い嬉しや新学期
捨てられず飾りもできず赤い羽根
屈めた背中で空背負う稲刈
剪りし爪をじっと見詰むる夜長し
楽しげに仕事に行くや秋気澄む
改めて学生証に見入る大晦日
主なき靴を揃えて冬に入る(★)
朝霧の中からぬっくり犬出づる
山茶花を目当てに家を探し当て
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打