『季刊芙蓉』第66号・2005年冬
夏休み岩波文庫買い求む
噛むように教科書を読む夏期講座
空咳し黙祷す終戦記念日
夜景見るための電車や薄羽織
苛めたる虫思い出す夏の午後
親の仇討つごと西瓜齧りけり
原爆忌シートベルトを締め直す
新蕎麦に誘われ暖簾を潜る
自転車を立ち漕ぎし野分に向かう(★)
夏休み岩波文庫買い求む
噛むように教科書を読む夏期講座
空咳し黙祷す終戦記念日
夜景見るための電車や薄羽織
苛めたる虫思い出す夏の午後
親の仇討つごと西瓜齧りけり
原爆忌シートベルトを締め直す
新蕎麦に誘われ暖簾を潜る
自転車を立ち漕ぎし野分に向かう(★)
年取れば皆同じ顔になる春
花びらを掌で受け入学す(★)
視力検査待つ間桜見つむ
柏餅ごく丁寧に葉を剥がし
我だけで博物館占める梅雨入
夏みかん皮むき終えて食う気失せ
ささくれし歯ブラシ使う梅雨の入
初雪やいつもの街路染め上げて
元旦に思わず探す富士の山
二度鳴る目覚まし憎し冬暁
新しき手帳にも慣れ春隣(★)
陽は天頂飛魚に手を出しそうに
ない筈の章魚の骨噛む夢を見て
屈伸運動の消防署員に春疾風
聖夜に受くホスチアの味あらたし
(ホスチア([ラ]hostia)は、カトリックのミサで、聖別される前の小麦粉で作られた種なしパンのこと)
音出して引く電子辞書そぞろ寒
秋の夜広辞苑のカバーを剥く
老いても手を繋ぎ鰯雲見遣る
強風にわずかに揺れる葱坊主
病院を脱け早慶戦を見る秋
肩書のない潔き名刺冴え(★)
図書館で本延滞し知る師走
道端に枯菊となり供えられ
ママをお母さんに変えた夏休み
シャツのボタン二つ外す油照り
着ないのに捨て難いランニングシャツ
かなかなに急かされ机に向かいても
夏終わる帽子失くすも買わぬまま
夜食摂りつつ聴くグレン・グールド
先ず学歴を問う人がいて秋暑し
新しき辞書にも馴れて長き夜(★)
石を蹴りながら帰る新入生
クレープを二人で食べて春うらら
バスケットの中の猫見つむる春の日
薫風に押されて向かう初打席
誤解から始まる恋や夏嵐
似合わないのに買ってしまうサングラス(★)
ふと時計の音が気になる短夜
楽章の合間まで持ち越せし咳
いつまでも眼で追いしひとがいて秋
フォークの背に御飯乗せ一葉忌(★)
冬の夜御飯に卵落としけり
元旦に遭うウォーキングの夫婦
余りにも長く拝んでいる初詣(★)
靴音を聞き分けられて春の夜
手袋で頁繰る間がもどかしく
振り返り繰り返し見る夏の蝶
兄のオーデコロン借りて初デート(★)
浴衣着る「前はどっち」といつも訊き
醜男にも同じように夏は来る
投函に走る颱風の眼の中を
新涼の朝革靴を磨きあげ
大臣来る街頭演説去ぬ燕
起き上がりささくれを剥く秋の夜
お姫さまのような子を見つけた春
新しき帽子を被り夏に入る
失せものを探して春の一日暮れ
飽くまでも長い脚持て余す夏至
春光や神父の按手未信徒に(★)
青嵐帽子抑える手は軽く
刃当てながらためらいつつ切る鰹
春立つやこむら返りで眼を醒まし
堂々として棒読みの聖夜劇(★)
死ぬわけじゃなしと云いたり受験生
サンドイッチ噛む音軽く行く春野
上出来の恋文を手に町うらら
ネクタイにすぐ手をやる新入生
ラーメンの湯気にとけ入る余寒かな
春の朝肩寄せ合い行く浜辺
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打