『季刊芙蓉』第55号・2003年春
十月の蝉も同じように鳴く
豪快に嵐従え志ん朝忌
教会を目指して歩む秋うらら(★)
ふと月を確かめ本に戻りけり
治らなくても好い新婚の風邪っ引き
「きみ」をやめ名前で呼んで秋うらら
凩に引き戻るわけおっつけて
食べたくないせんべいかじる冬至
十月の蝉も同じように鳴く
豪快に嵐従え志ん朝忌
教会を目指して歩む秋うらら(★)
ふと月を確かめ本に戻りけり
治らなくても好い新婚の風邪っ引き
「きみ」をやめ名前で呼んで秋うらら
凩に引き戻るわけおっつけて
食べたくないせんべいかじる冬至
野分でさえ風はいつも横に吹く
炎昼の鼓膜を揺るがす泣き声
夏衣に覗く静脈見つめつつ
人殺すほどの日差しや圓朝忌(★)
鳩したがえて片蔭の動きおり
終戦日ATMで出金す
箱庭に恋う人入れて完成す
戸袋の蜘蛛の巣払い引く雨戸
鐘撞いてその音に驚愕木の芽時
利酒を倶に飲みつつ春惜しむ(★)
置きし受話器見詰め続ける春の夜
師が逝って春の光の白々し
運命に導かれ逢う春の闇
傍らのスケッチ覗き半夏生
鳩の声聞きつつ墓を洗いけり
毛氈をめくる子がいるひな祭(★)
梅の香や振り返り梅たしかむる
目を醒まし愕然とする春の床屋
春愁のガンに冒されし乳房よ
屁を放ち逝きし褥の春嵐
春の風邪小さんの落語聴きつつ寝
大朝寝解いて切り抜く訃報欄
肩に雪遺影に睨みをくれてやり(★)
眼鏡を交互に使う夫婦や秋深し(★)
何を見ても何かを思い出す秋光
水蜜を食べる仕種が父に似て
秋霖や恋う人を絵に封じ込め
駅弁の箸止め見入る冬の海(★)
寝て開いた眼は何見てる秋の昼
相撲取空を切り裂き四股を踏む
眼つむるとなれ汝現れる日向ぼこ
食いしばり歪め逝く弟の夏(★)
幽霊の弟と会う八雲の忌
痛む歯をそっと磨いて朝寒し
心づけ渡しそびれし夕月夜
取る気配なき電話聞こえて暑し
何でも冷蔵庫に入れる父逝く
秋うららカフスを嵌めて逢瀬かな
野分どの針も狂っている時計
狂うのも許されるなり花の夜(★)
元気だったと肩叩かれて復活祭
爪立ちて内緒話や夏初め
親が出てしどろもどろの熱帯夜
更衣どうしても目で追ってしまう
泣きながら盛夏の向田邦子展
一瞬の笑顔見るため会う孟夏
歳晩の壁カレンダーの跡白し
鴫どこまでも川面すれすれに飛ぶ
積む雪をじっと見ている座敷犬(★)
バレンタインデーちょっと間を置き取る受話器
形良きその手握って町うらら
大試験転がる消しゴム追いかけて
昇降機の階段見詰むる受験生(★)
吾がいびきに起きて見ている春の闇
再会し視線合わさず秋黴雨
レモンの香な汝を思い出し歯を当てる
合わすでも逸らすでもない目十六夜
名前だけ正しく書けて新入生(★)
うた歌いつつ死にたい小春
片時雨振り返らない背を見詰め
襟立てて物干台で吸い煙草
漱石忌マドンナに貸す文庫本(☆)
炎昼の猫過ぎりけり露天風呂
迷ひ子も一瞬見上ぐ花火かな(★)
掌は蝶となりけり盆踊り
席一つ空け座る二人秋の風
お目当てと即かず離れず盆踊り
秋の虹瞼閉ぢればうかぶなれ汝
野球場肩寄す二人に放屁虫
砂漠にてひとり聴き入る秋の声
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打