『季刊芙蓉』第47号・2001年春
再会し視線合わさず秋黴雨
レモンの香な汝を思い出し歯を当てる
合わすでも逸らすでもない目十六夜
名前だけ正しく書けて新入生(★)
うた歌いつつ死にたい小春
片時雨振り返らない背を見詰め
襟立てて物干台で吸い煙草
漱石忌マドンナに貸す文庫本(☆)
再会し視線合わさず秋黴雨
レモンの香な汝を思い出し歯を当てる
合わすでも逸らすでもない目十六夜
名前だけ正しく書けて新入生(★)
うた歌いつつ死にたい小春
片時雨振り返らない背を見詰め
襟立てて物干台で吸い煙草
漱石忌マドンナに貸す文庫本(☆)
炎昼の猫過ぎりけり露天風呂
迷ひ子も一瞬見上ぐ花火かな(★)
掌は蝶となりけり盆踊り
席一つ空け座る二人秋の風
お目当てと即かず離れず盆踊り
秋の虹瞼閉ぢればうかぶなれ汝
野球場肩寄す二人に放屁虫
砂漠にてひとり聴き入る秋の声
尻振って漕ぐ自転車や春の汗
貝柱箸でつつくや納税期(★)
図書館で辞書引く女子学生うらら
スタンドは白一色に夏来る
真夜中に書く恋文や夏嵐
いつの間に享年を過ぎ桜桃忌
恋う人が現れて音消ゆる朱夏
『罪と罰』新訳を手に三箇日
ウォシュレットに尻洗わせて初手水
靴下ろし背が高くなり初詣
初笑ひ隣の肩を叩く妻
水温むスケッチする手軽やかに
受験生一瞬を置きガッツポーズ(★)
ともに見る人は変りて梅の花
痛む歯でブラームス聴く春の夜
裾上げて歩く着物に春の雨
走っても遁れても月追いかけ来
怪我癒えし寄席の楽屋やちちろ虫
呑み飽きてかくなるうえは黒ビール
もっこりとある満月なんだいたのか
寒月や戸を開けて常連探す
死ぬまでずっと爪を剪る冬の宵(★)
悴む手夫のポケットに入れて
落第の戻りて確かむ掲示板
二タ心なきダーリン彼女とクリスマス
いつ掛ける頭の上のサングラス
大夕立体に張り付く白いシャツ
その脚の長さに見惚れ梅雨明くる
EVIANのペットボトルに汗涼し
光りもの食べられぬ子の七五三(しめ)祝
黝々と幽霊船とも花火舟
理髪店貰ひあくびや秋の昼
わが子出づ泡立草の間から
柿だけは自分でむいて食べる父(★)
子供の日塀にボールをぶつけては
求婚とも思えぬ声や雄蛙
骨折ってぶらぶらの脚先に水馬(★)
ギプス取れ風通り抜く薄暑かな
譲られて坐られぬ席薄暑かな
アイスクリーム頬張って左見右見
父の日や話題に上る墓探し
新しき暦丸まる年の暮
ぶかぶかの形見の時計鳥雲に(★)
投げやりに餌撒く男冬かもめ
取的の傘をはみ出す肩に雪
雪溶けて木が一本や雪女郎
眠る娘に肩を差し出す春の電車
老い父とアイスコーヒー春の午後
海苔食う人をじっと見ている外国人
春霖に毛ほどの嘘をあばく妻
椎茸の匂いいつの間に好きになりし
初恋をバトンに託し運動会(★)
亡きちち義父の枕頭で聴く月鈴子
木の実突く鳥の嘴ミシンかな
フラッシュに目をつぶってる七五三
枯枝を咥えて走る老犬よ
青空にくねり大根干す軒端
どの木にも残り柿あり上州路
足踏みしつつ待つ年末の宝くじ
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打