『都市』第91号・2023年2月
【青桐集】
白髪なら親より多し秋深む
颱風来夫婦喧嘩の尻上がり
骨折れし傘また使ふ厄日かな
山近し光遍き蕎麦の花
蒲団にてめくる頁のもどかしく
【都市集】
記号論いくらかわかる秋の夜
広辞苑小さくなりて秋土用
灯(ともしび)を少し落としてとる夜食
月冴ゆる未投函なる手紙燃す
冷まじや周作『侍』読み了へて
【青桐集】
白髪なら親より多し秋深む
颱風来夫婦喧嘩の尻上がり
骨折れし傘また使ふ厄日かな
山近し光遍き蕎麦の花
蒲団にてめくる頁のもどかしく
【都市集】
記号論いくらかわかる秋の夜
広辞苑小さくなりて秋土用
灯(ともしび)を少し落としてとる夜食
月冴ゆる未投函なる手紙燃す
冷まじや周作『侍』読み了へて
【青桐集】
手を拭きつ青田から出で振り返る
町なかをサングラスかけ大股に
好きなもの少なく食し秋に入る
秋簾ていねいに巻き積み上ぐる
影にこそ人が現る夏夕べ
【都市集】
夏の海泣く子笑ふ子強がる子
星月夜旧き教科書再読す
白シャツのすべてのボタン締め臨む
秒針の動き大きく今朝の秋
『罪と罰』読まず終はれり夏休み
【青桐集】
文鎮の重さ一入梅雨に入る
簾上ぐ眼と眼が合ひて腰かがめ
妻となる人と見つむる柿若葉
短夜の文を書き上げ投函す
日盛やただ手を上げて挨拶す
【都市集】
銭湯の口開けとなる麦の秋
山女釣親子の無言続きけり
夏休み屋根に上りて本を読む
牛乳を飲みつ見上ぐる雲の峰
夕食に少し多目の心太
【青桐集】
読み出していつとはなしに春の星
校庭に主なき毬春の月
靴中の小石を除(の)けて荷風の忌
パンの耳あつめ揚げをり遍路宿
子を抱きし葬列よぎる夏の蝶
【都市集】
下駄おろし久助買ひに夏近し
信太鮨多目に飯し春深し
丹念に眼鏡拭ひて草を焼く
比良八荒久方ぶりの歯の痛み
子のをらぬ夫婦見つめるしやぼん玉
門番の長き欠伸や春の昼
【青桐集】
二人して転んで笑ふ雪の道
下駄おろし久助買ひに春の昼
葉をむきて親の手に置く桜餅
春愁や長き鉛筆持て余し
靴底の画鋲を抜いて夕永し
【都市集】
靴間違ひて戻りたる年賀客
師の逝きて行くところなし明の春
風邪癒えて逆光に見る紫木蓮
戦ひ終へて耳の掃除や春の宵
木蓮に促されての再登校
【青桐集】
間違ひて妻の歯ブラシ神の留守
ベートーヴェン流しながらの大根干
山茶花の続きを見たく曲がりをり
逆剝けと戦ふ人生冬兆す
言挙げのさかんな子ども賀状書く
【都市集】
師と二人ことば探して薬喰
聾学校光の中に散り紅葉
鯛焼の尻尾肴に酒を呑み
怒られることもなくなり風冴ゆる
木菟啼いて泣いていた子が泣きやんで
秋深む函に入りたる広辞苑
秋闌くる読まないくせに文庫本
雨降りて屋根探しての芋煮会
鵙の贄無言で見入る子どもたち
秋の昼点いたままなる街路灯
時鳥空き家から洩れ聞こえ来る
宿題を終へて金魚を見つめ居り
古書店に周作全集聖母祭
亡き犬の首輪を捨つる今朝の秋
背を伸ばし車椅子乗る秋の朝
教会の屋根から出づる二重虹
柏餅いつの頃から買ひもせで
一渡り睨めまはしゐる青葉木菟
夏めくや楽屋のスリッパ新調し
電車下り初めての町鰻食ぶ
都市集【巻頭】中西 夕紀(主宰)選
春の昼離れ見詰むる紙芝居
終電の網棚にあるチューリップ
コロナ禍の色無き町に春の雨
風光る靴音軽く坂上がる
いくぶんか帯をきつめに初浴衣
背負ふ母重くもなくて木の芽時
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打