町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

俳句 記事一覧俳句

『都市』第61号 「俳句と私」

2018.02.15(木)

自選五句

たんぽぽや終に子どもは授からず
寒星やメニューに見入る老夫婦
片想ひ独活の天ぷら噛みしめて
完璧な蟹股歩きやませ吹く
漱石忌卵落としてカリー食ぶ

「俳句と私」
 ressentimentというフランス語を、私は日本語として覚えました。

 このルサンチマンを、広辞苑(第二版補訂版)にあたると、「怨恨・憎悪・嫉妬などの感情が反復され内攻して心に積っている状態」と記されています。私が俳句を詠むのは、まさにルサンチマンによるのです。

 「怨恨・憎悪・嫉妬などの感情が反復され内攻して心に積って」くると、それらを吐露しないと苦しくなります。そんなとき、「こん畜生」とおもいながら俳句を詠むと、心が平らかになってくるのです。花鳥諷詠は、あらばこそ、です。

 心に積った憂さを晴らすために、俳句を詠む、これが「俳句と私」とのただならぬ関係です。

『都市』第61号・2018年2月

2018.02.01(木)

サイレンの入り交じりたる秋祭
秋澄んで腕の時計の新しく
理髪店往きも帰りも野菊愛で
新しきネクタイを締め文化祭
宵闇や売りし本また買ひ戻し

『都市』第59号・2017年10月

2017.10.01(日)

相撲取り仰ぎてゐたる柿の花
新茶汲む永の別れを胸に秘め
桑摘むや今年の雨に怯えつつ
ぼうたんの落ちて逃げるや子どもたち
紫蘇香るきれいに空いた耳の穴

『都市』第58号・2017年8月

2017.08.01(火)

桜見て少しく長く歯をみがく
まづなめて肌を味はふ柏餅
米研がず炊くもありなん花魁草
江ノ島の水族館へ袷着て
哲人の貌の乞食聖五月

『都市』第57号・2017年6月

2017.06.01(木)

久方のカフスボタンや冴返る
白梅を腰を伸ばして見入る母
涅槃雪怒るわけにもいかず寝る
動きゐるやうにも見えて春の土
三月や人生決める本を読む

『都市』第56号・2017年4月

2017.04.01(土)

ちやんちやんこ着てバスを待つ夕べかな
漱石忌卵落としてカリー食ぶ
風邪引の妻の味噌汁味薄し
ジャズピアノ聞きつ賀状の宛名書き
正月来ざふきんのなき家庭にも

『都市』第60号・2017年12月

2017.02.01(水)

ごきぶりを殺してのちの葬儀かな
飼犬の鼻の乾きや熱帯夜
何をしたでもなく迎ふ夏夕べ
都県境の橋渡りつつ秋覚ゆ
美しき人のきれいに汗をかく

『都市』第55号・2017年2月

2017.02.01(水)

媼一段おきに駆け上がる秋
服たたむにも癖があり秋の昼
なめこ汁唇にても味はへり
みの虫の茶は他とは違ふ茶色
飼主も犬も走るや冬ぬくし

『都市』第54号・2016年12月

2016.12.01(木)

白南風の髪の隙間を吹き抜けり
ジャズバーの打ち水をして店開ける
政談を好む子どもの夏休み
車椅子の手を動かすや盆踊り
糸瓜食むことなく五十七才に

『都市』第53号・2016年10月

2016.10.01(土)

小満や本読む眼(まなこ)休めをり
親指に体重を掛け岩魚釣
なすびなりとも端好む考(ちち)なり
好きな人隠しきれずに大花火
完璧な蟹股歩きやませ吹く

山中多美子選(『都市』54号11頁)