『季刊芙蓉』第86号・2010年冬
いつの間に砂糖加へず飲む麦茶
ゆうやけをいつまでも見る犬と子と
字余りたる人生また立秋を迎ふ
ぶだうの実と同じ大きさの鼻の穴
秋は突如敢然としてやつてくる
何にでも触る子がゐて夏終る
庭に出て妻と一緒に月を見詰む
黙祷の時間の重し原爆忌(★)
いつの間に砂糖加へず飲む麦茶
ゆうやけをいつまでも見る犬と子と
字余りたる人生また立秋を迎ふ
ぶだうの実と同じ大きさの鼻の穴
秋は突如敢然としてやつてくる
何にでも触る子がゐて夏終る
庭に出て妻と一緒に月を見詰む
黙祷の時間の重し原爆忌(★)
傘を閉じまた傘開く梅雨の入り(★)
ジェットコースターを日がな見詰めて梅雨長し
泳ぐでもないイルカ撫で半夏生
冷奴の旨さ分らぬまま五十路
病院で興味なきテレビ見て梅雨入
選挙カーに手を振る子ども半夏雨
中元の品定めかねコーヒー飲む
寝入る度箱根駅伝順位変わる
ガタつく机に紙をかう春昼
蕾なれど人集まりて花見かな
本会議野次浴びてウグイスとなる
鷲鼻も低い鼻でも穴二つ
一人酒好ましくなる知命の春
浮気せぬまま中年となり春霖
暇つぶしに献血をして四月馬鹿(★)
この秋にふと思う今わの際(★)
妻の握った新米の結び征伐す
茶の花忌迫る山間に日が落つ
永遠と一瞬が交差する秋彼岸
残業し各駅停車で帰る聖夜
妻と縫いぐるみと「川」で寝る聖夜
恩師の訃報新聞切り抜く冬至
耳毛も伸びる五十路の冬将軍
立ち喰ひそば屋で恩師と遭ふ迢空忌
外人がやがて加はる盆踊り
秋の蚊を打つて目覚める夜の列車
鰯雲電話の音の鳴り止まず
秋冷や三人寄れば自慢ばなし
新聞を読む梨の汁滴らせ(★)
大学の図書館出でて秋惜しむ
答案の書けぬ夢また冬近し
眼を逸らすのに力要る花見かな
服脱ぐや紛れた桜舞い落ちる
復活祭お互いの無事確かめぬ
初恋の人と藤棚で待ち合わす
かくまで軽き母の手握り薄暑(★)
牛丼屋で雨宿り卯の花腐し
梅雨の明おならで家族さんざめく
夜中に目覚め大福食す冬至
角袖に腕通す音淑気かな
修論を読初にして早や知命
丸暗記こぼさぬやうに大試験(★)
菫摘む妻の頭に白髪見ゆ
麗かやぬるき味噌汁飯にかけ
春嵐帽子おさへてペダル踏む
蒟蒻を食してみたし春の午後
そば屋にて「枯葉」聞きつつすするざる
秋空の気球に見とれ妻とわれ
車のミラーで髪整へて師走(★)
車中にてもみぢを肴に酒を飲み
いそいそと帰郷し虹に迎へらる
柚子湯にて鼻歌唄ふインド人
冬薔薇祈る形で顔寄せる
出がらしのコーヒーすすり試験勉強
棒と化す足もぎみたし土用入(★)
言葉持たぬ猫睦まじく秋に入る
飲まなければとても好い人鰻食む
下ろしたての靴履き出でて大夕立
歯にはさまるあたりめを抜く晩秋
歯を磨いても痛みは取れぬ白露かな
人はテストされ試され冬近し
ゆったりと動く小鳥を見たことなし
尻取りで「ず」を探し梅雨に入る
眼をつむり盲導犬に引かれ立夏
退院しいつまでも万緑に見入る
トマト入れた味噌汁をこはごは飲む(★)
阿修羅となつて物捨つ憲法記念日
母の自転車に空気を入れて芒種はや
妻と手繋ぎ献血に行く夏至
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打