丸谷 才一『樹影譚』(文春文庫)
1)恰好
この小説は、画然と3つの部分に分けられた構成となっている。
それらはただ時間的、全体的に3つの部分に区切ったわけではなく、それぞれに異なった小説的機能を有した3つの別種のブロックによって形成されたものとなっている。
(1)前置き
丸谷才一と思しき作者は垂直な壁に映る樹木の影に、魅かれている。
何故かしらそれに昔から心を惹かれる傾向がある。ただ作者は、それが何故であるのか、明確な理由、根拠が思いつかない。 それを出しに小説を書いてみようとしているのだが、それに着手することができずにいる。
それは作者が数年前に、どこかで、似たような筋立てのナボコフの小説を読んだことがあるからである。