本レポートは、2006年度早稲田大学 社会科学部 専門科目「障害者福祉論」(篠田徹教授)での、リサーチペーパーである。
1、〔テーマ〕
「早稲田大学と、筆者が住む地方公共団体である、東京都町田市における障害者雇用における現状と今後の展開を予測して、比較する」
上記のテーマを設定したものの、収集できた情報量があまりにも少なかったこともあり、法定雇用率を大きく下回った企業を公表するまで、厚生労働省が当該企業に指導した内容を付加する。
2、〔検討対象に、上記の2団体を選定した理由〕
早稲田大学を選んだのは、筆者にとって最も身近な民間団体だったからである。
町田市を選んだのは、現在そこに住む市民として、住んでいる自治体の実態を知りたかったのと、現在市議会議員を勤める自治体の障害者雇用の実態を、保健福祉常任委員として把握する必要性を感じたからである。
3、〔障害者雇用の実態〕
1)民間企業
全国の民間企業における障害者雇用率は、昨年(2006年)6月現在で1.52%であり、法定雇用率である1.8%(従業員56人以上)を下回っている。
しかし、1.52%は過去最高の水準とのことである。(厚生労働省調べ、以下厚労省)
雇用されている障害者の人数も約28万4千人と、前年より約1万5千人増えたが、雇用率の算定対象となった精神障害者は、約2千人という低水準に依然として留まっている。
障害者雇用促進法は、中央政府と地方自治体(都道府県教育委員会を除く)には、障害者の雇用を少なくとも職員の2.1%、都道府県教委は2.0%、民間企業は1.8%(従業員56人以上)にするように求めている。
達成できない場合には、改善計画作成が義務付けられているほか、是正勧告、企業名公表などが行われる。
今年度は2社が公表された。それは、下記の2社である。
1、両毛丸善株式会社 栃木県足利市問屋町 事業内容、石油製品小売業
上記企業は、平成18年4月1日現在実雇用率が、0.67%の低水準に留まっている。
官公庁の法定雇用率は、民間企業より高水準な2.1%に設定されているが、そこでの取り組みの遅れも依然として改善されていない。
警視庁では、法定雇用率の達成に29人、東京消防庁で7人不足するなど、平均においても2003年の水準を下回ってしまった。
2、株式会社ウィザス 大阪府大阪市中央区備後町 事業内容、学習塾・高認予備校・サポート校
上記企業は、平成18年4月1日現在実雇用率が0.72%の低水準に留まっている。
上記企業は公表に到ったが、それは企業努力が足りなかったためである。
なぜならば、厚労省は平成13年から改善指導を両社に対して行っていたにもかかわらず、両社ともに改善の兆しすら見せなかったための処置だからである。
指導を行った企業は両社に限らず、全部で24社あった。
以下、厚労省が当該企業に行った指導の経緯を詳細にたどってみよう。
資料は厚労省の【HP】https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/06/h0630-4.htmlより。
厚生労働省発表
平成18年6月30日
職業安定局高齢・障害者雇用対策部
障害者雇用対策課 課長 土屋 喜久
主任障害者雇用専門官 白兼 俊貴
障害者雇用専門官 浅賀 英彦
電話 5253-1111(内)5784;5857
3502-6775(直通)
障害者の雇用の促進等に関する法律第47条の規定に基づく
企業名の公表について
障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号。以下「法」という。)では、事業主に対し、法定雇用率(1.8%)以上の身体障害者又は知的障害者の雇用を義務付けており、厚生労働大臣は、その履行を図るため、障害者雇入れ計画作成命令の発出(法第46条第1項)及び雇入れ計画の適正実施勧告の発出(法第46条第6項)を行うほか、当該勧告に従わず、一定の改善がみられない事業主については、公表を前提とした特別指導を行った上で、企業名の公表(法第47条)を行うこととしている。
平成17年度における公表を前提とした特別指導の結果、下記2社については、これまでの一連の雇用率達成指導にもかかわらず、障害者の雇用状況に一定の改善がみられず、特別指導期間終了後の平成18年4月1日現在において、厚生労働省の基準を充足しなかったため、法第47条の規定に基づき企業名を公表する。
なお、今般の企業名公表に係る雇用率達成指導の流れは、別添1のとおりであり、平成17年度における公表を前提とした特別指導の概要は、別添2のとおりである。
記
両毛丸善株式会社
栃木県足利市問屋町1535−12
株式会社ウィザス
大阪市中央区備後町3−6−2 KFセンタービル
両毛丸善株式会社について
1 企業概要
○ 企業名 両毛丸善株式会社
○ 所在地 栃木県足利市問屋町1535−12
(管轄:ハローワーク足利)
○ 事業内容 石油製品小売業
2 指導経過
平成13年10月30日 法第46条第1項に基づき、足利公共職業安定所長から障害者雇入れ計画作成命令を発出
平成14年1月1日〜 雇入れ計画の実施(計画期間 3年間)
平成15年10月23日 雇入れ計画の適正実施勧告を発出
平成16年12月31日 雇入れ計画の期間満了
平成17年7月〜 特別指導の対象企業に選定し、特別指導を開始
(〜平成18年3月)
平成18年3月2日 本省において直接指導を実施
以上のような一連の指導のもとで、企業側において障害者向けの求人が一定数出されているが、障害者の雇入れに向けた求人条件や職務の見直しが十分でないため、障害者を採用するに至らず、平成18年4月1日現在の実雇用率が0.67%と低い水準にとどまっている。
3 障害者雇用状況の推移
基礎労働者数 障害者の数 実雇用率 不足数
H13.6.1 805人 4人 0.50% 10人
H14.6.1 845人 6人 0.71% 9人
H15.6.1 857人 6人 0.70% 9人
H16.6.1 902人 6人 0.67% 10人
H17.6.1 878人 6人 0.68% 9人
H18.4.1 890人 6人 0.67% 10人
(注) 障害者の数には、重度障害者のダブルカウントが含まれている。
株式会社ウィザスについて
1 企業概要
○ 企業名 株式会社ウィザス
○ 所在地 大阪市中央区備後町3-6-2 KFセンタービル
(管轄:ハローワーク大阪東)
○ 事業内容 学習塾・高認予備校・サポート校
2 指導経過
平成13年11月5日 法第46条第1項に基づき、大阪東公共職業安定所長から障害者雇入れ計画作成命令を発出
平成14年1月1日〜 雇入れ計画の実施(計画期間 3年間)
平成15年11月4日 雇入れ計画の適正実施勧告を発出
平成16年12月31日 雇入れ計画の期間満了
平成17年7月〜 特別指導の対象企業に選定し、特別指導を開始
(〜平成18年3月)
平成18年2月16日 本省において直接指導を実施
以上のような一連の指導のもとで、企業側において障害者向けの求人が
一定数出されているが、障害者の雇入れに向けた求人条件や職務の見直し
が十分でないため、障害者を採用するに至らず、平成18年4月1日現在の
実雇用率が0.72%と低い水準にとどまっている。
3 障害者雇用状況の推移
基礎労働者数障害者の数 実雇用率 不足数
H13.6.1 530人 4人 0.75% 5人
H14.6.1 528人 4人 0.76% 5人
H15.6.1 524人 4人 0.76% 5人
H16.6.1 548人 4人 0.73% 5人
H17.6.1 551人 4人 0.73% 5人
H18.4.1 554人 4人 0.72% 5人
(注) 障害者の数には、重度障害者のダブルカウントが含まれている。
平成18年度企業名公表に係る雇用率達成指導の流れ図
平成13年10月〜11月雇入れ計画作成命令発出(法第46条第1項)
平成13年6月1日現在の雇用状況を
踏まえて、159社に対し発出
平成14年1月
↓ 雇入れ計画の実施(3年間(平成14年〜16年)の計画)
平成16年12月
平成15年2月〜3月安定所長名の雇用勧奨状
平成15年10月〜11月適正実施勧告(法第46条第6項)
(41社に対し発出)
平成16年2月本省職業安定局長名の(適正実施勧告を発出した企業へ送付)
雇用勧奨状
平成16年12月雇入れ計画の期間満了
平成17年7月
↓ 特別指導
平成18年3月
(24社に対し実施)
公表(法第47条)
平成17年度における公表を前提とした特別指導の概要
(1)指導対象企業
平成17年度における公表を前提とした特別指導は、平成14年からの3年間を計画期間とする雇入れ計画の作成を命ぜられ、計画期間中にその適正実施について勧告を受けた企業のうち、なお、改善のみられない企業24社を対象として実施した。
(2)対象企業の代表者に対する、公表を前提とした指導の実施対象企業を管轄する公共職業安定所長から、対象企業の代表者に対し、障害者の雇用に関する事業主の責務、障害者の雇用の現状、これまでの雇用率達成指導の経緯等について十分説明の上、求職情報の提供、面接会への参加勧奨等を行いつつ、雇用義務を達成するよう再度の指導をきめ細かく実施した。これと併せて、必要に応じて都道府県労働局幹部による訪問指導等を行った。
加えて、取組が遅れている対象企業に対しては、厚生労働省に来省を求めて指導を行い、これを踏まえて、労働局及び公共職業安定所においても引き続きの指導を行った。
(3)指導事項
[1]平成18年4月1日現在で、少なくとも平成16年(特別指導の開始年の前年)の全国平均実雇用率(1.46%)を達成するよう指導を行った。
なお、法定雇用障害者数*が3〜4人である企業に対しては、少なくとも1名以上の障害者の雇用を実現するよう指導を行った。
* 法定雇用障害者数
雇用する労働者の数に法定雇用率を乗じて得た数(端数切り捨て)
[2][1]の指導の結果を踏まえ、下記A・Bのいずれにも該当せず、最終的に行政指導の効果が見込まれないと判断された企業については、公表を実施することとした。
A 上記[1]の指導基準を達成したこと。
B 下記イ〜ハのいずれかに該当すること。
イ 障害者雇用に関する次のa〜eの取組をすべて実施し、その結果、一定の実雇用率(1.2%)を達成すること。
a 障害者の採用及び職場定着のための社内検討体制を整備し、その検討を行い、職務再設計等障害者雇用率を達成するための結論が出ていること。
b 特別枠の設定による障害者の常時受入れ体制を整備し、具体的な求人活動が行われていること。
c 障害者雇用についての理解を促進するための社内研修の充実が図られていること。
d 障害者雇用のための施設設備の改善等が行われていること。
e 法定雇用率を平成18年4月1日から3年以内に達成する雇入れ計画を作成していること。
ロ 特例子会社の設立を、平成18年4月1日から1年以内に実現するための具体的な取組を行うこと。
ハ 直近の障害者の雇用の取組の状況から、速やかに行政指導の効果が期待でき、かつ、実雇用率が全国平均実雇用率以上となると判断できるものであること。
[3][2]のBに該当する企業については、初回の公表に限り公表を猶予することとするものであり、引き続き、都道府県労働局及び公共職業安定所において、公表を前提とした指導を行う。
(4) 指導の結果
上記の指導の結果は、次ページの表2のとおりであり、24社中22社については特別指導による改善が認められた。
本資料の1ページに記載した2社については、特別指導期間終了後の平成18年4月1日現在において、上記(3)の[2]の基準を充足しなかったため、法第47条の規定に基づき公表することとした。
なお、指導対象企業24社全体の実雇用率は、雇入れ計画期間の始期において0.41%であったが、特別指導期間終了後の平成18年4月1日現在においては
1.41%と、1.00ポイント上昇した。
(5) 今後の指導
特別指導の対象となった企業のうち、公表企業及び公表を猶予した企業に対しては、今後も引き続き、公表(再公表)を前提とした指導を実施する。
また、全国平均実雇用率を達成したものの雇用義務を達成するには至っていない企業についても、雇用義務を早急に達成するよう、引き続き指導を実施する。
(表1) 特別指導対象企業の状況
規1,000人以上規模企業 2社
模
別1,000人未満規模企業 22社
製造業 2社
情報通信業 1社
卸売・小売業 10社
金融・保険業 1社
飲食店、宿泊業 1社
教育、学習支援業 3社
産業別
サービス業 6社
合 計 24社
(表2) 特別指導の結果
雇用義務を達成した企業 5 社
全国平均実雇用率(1.46%)を達成した企業 7 社
法定雇用数3〜4人の企業であって、障害者数が1人以上となった企業3 社
他社と統合した企業(注1) 1 社
雇用改善のための所定の取組を実施し、かつ、一定の雇用率(1.2%)を達成した企業(注2) 6 社
(公表猶予)
公表に至った企業 2 社(公 表)
合 計 24 社
(注1)当該企業は、統合以前に雇用義務を達成していた。
(注2)「所定の取組」とは、以下のものをいう(5〜6ページ参照)。
a 社内検討体制の整備と職務再設計等
b 具体的な求人活動
c 社内研修の実施
d 施設設備の改善等
e 法定雇用率を達成する雇入れ計画の作成
(表3) 24社全体の実雇用率の推移
雇入れ計画始期 H15.6.1 H16.6.1 H17.6.1 H18.4.1(注)
公表2社 0.75% 0.72% 0.69% 0.70% 0.69%
他22社 0.38% 0.47% 0.62% 0.91% 1.47%
計 0.41% 0.49% 0.63% 0.89% 1.41%
(注) H18.4.1 現在の数値は、他社と統合した1 社を除いた数値である。
引き続き、公表(再公表)を前提とした指導を実施
(参考1)
障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)(抄)
(身体障害者又は知的障害者の雇用に関する事業主の責務)
第三十七条 すべて事業主は、身体障害者又は知的障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで身体障害者又は知的障害者の雇入れに努めなければならない。
(一般事業主の雇用義務等)
第四十三条 事業主(常時雇用する労働者(一週間の所定労働時間が、当該事業主の事業所に雇用する通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短く、かつ、厚生労働大臣の定める時間数未満である常時雇用する労働者(以下「短時間労働者」という。)を除く。以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する身体障害者又は知的障害者である
労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。
(第二項から第五項まで 略)
(一般事業主の身体障害者又は知的障害者の雇入れに関する計画)
第四十六条 厚生労働大臣は、身体障害者又は知的障害者の雇用を促進するため必要があると認める場合には、その雇用する身体障害者又は知的障害者である労働者の数が法定雇用障害者数未満である事業主に対して、身体障害者又は知的障害者である労働者の数がその法定雇用障害者数以上となるようにするため、厚生労働省令で定めるところにより、身体障害者又は知的障害者の雇入れに関する計画の作成を命ずることができる。
(第二項から第四項まで 略)
5 厚生労働大臣は、第一項の計画が著しく不適当であると認めるときは、当該計画を作成した事業主に対してその変更を勧告することができる。
6 厚生労働大臣は、特に必要があると認めるときは、第一項の計画を作成した事業主に対して、その適正な実施に関し、勧告をすることができる。
(一般事業主についての公表)
第四十七条 厚生労働大臣は、前条第一項の計画を作成した事業主が、正当な理由がなく、同条第五項又は第六項の勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。 以上
以上、厚労省のHPから引いたものであるが、公表する前に同省は当該企業に対して、かなりの程度指導したことが分かり、これならば、企業にしたところで公表されても致し方ないと認識させられた。
2)都道府県教育委員会
ここで、教育行政の主な担い手である都道府県教育委員会における障害者雇用の実態をみてみよう。
2005年6月現在の都道府県教委別の障害者雇用率をみると、基準を上回ったのは京都府の2.12%だけであった。
次に雇用率が高い和歌山県が1.89%で、大阪府、奈良県、東京都が続いている。
逆に最も低いのは、山形県の0.77%で、以下下位から順に、高知県、茨城県、栃木県、岡山県、埼玉県の計6県は、いずれも1%未満。全体の平均は、1.33%だった。
法定雇用率の対象となっている都道府県教委の職員は、公立の中学校・高等学校の教職員と教委事務局の職員で計58万人。市町村教委所属の教職員は含んでいない。
中央政府と地方自治体では7割以上の機関が基準を満たしているが、4割強しか達成していない民間企業と較べても、教委での達成率は極端に少なくなっている。
このため厚生労働省では、2008年末までに「少なくとも10教委で法定雇用率を達成する」との目標を設定した。
残り37教委についても「現行から0.4ポイント以上の改善」という数値目標を明示した。
さらに、2011年までに30教委での達成を目指す、という。
雇用率の低さについて山形県教委は、「職員の大半が教員。障害者で教員免許を持つ人自体が少なく、止むを得ない」と説明している。
それに対し厚生労働省は、「採用の選考の仕組みを工夫したり、事務局に登用したりするなど方法はあるはずだ」と譲る気配はみせない。以上、朝日新聞06.10.18
4、〔厚生労働省の方針〕
厚生労働省(以下、厚労省)は、障害者の法定雇用率を達成していない企業に対する指導を、2007年度から強化する。
それによれば、これまで指導対象は、雇用率が「1.2%未満」などの企業だったが、これを「全国平均未満」へと切り替えるとのことである。
厚労省の指導強化のために平均雇用率が高くなれば、それに伴い、基準も年々厳しくなる仕組みとなる。
法定雇用率の未達成企業は、全体の6割近い約38,000社にのぼる。
厚労省はこのうち、
1)雇用率が1.2%未満で、法定率を満たす雇用者数より障害者5人以上が不足
2)1.2%以上だが、障害者が10人以上不足している大企業
3)障害者を雇っておらず、3~4人不足している中企業
以上の3条件にあてはまる合計4,800社に対し、重点的に指導している。
対象企業は、法定雇用率達成に向けた「雇い入れ計画」の提出を求められ、3年で達成させなければ企業名が公表される。
これを来年度からは、1)の条件を「全国平均未満で5人以上不足」に変更する。
これに伴い、指導対象企業は、約700社増える見込みという。
また、2)、3)は、現状のままにする見通し。
なお、法定雇用率を下回ってもすぐに指導対象にしない理由は、企業経営への影響や、過度の指導が障害者の職業選択の自由を逆に侵してしまう可能性も有り得るからとの判断からだが、著しい違反状態の企業から指導を強め、障害者雇用への理解を促す姿勢へと、厚労省が転換したことを意味する。
5、〔早稲田大学の対応〕
RP作成に当たり2、で記したように、早稲田大学は筆者にとって最も身近な民間団体であるので、その調査対象とした。
その早大の障害者雇用の実態を知るべく、先ずは、14号館3階にある社会科学部の事務室に伺ったところ、そのような案件は、大隈会館にある人事部に行って聞いてみてくれないかとの返答を得た。
以降の部分については、早大の関係者との間で、インターネット上での公開はしない、という約束を交わしたために、割愛する。
6、〔町田市の対応〕
町田市総務部職員課に、障害者雇用の実態を知りたい旨を知らせると、すぐに対処してくれ、1週間ほどで、資料が届いた。
町田市の場合、法定雇用率は各年ともに、達成されているようである。
ただし、その実態を知りたくも、個人情報保護を楯に取って、担当部署は一切教えてはもらえなかった。
この部分の数字も、公開は控えさせていただく。
7、〔新たな動き〕
1)市民自らが障害者の就労支援を担う動き
行政に任せるだけでなく、これからは、市民自らが障害者の就労支援を担おうという動きがある。
たとえば、静岡県浜松市では、NPO法人「浜松NPOネットワークセンター」が2001年に、知的障害者の就労支援システムづくりを県から受託された。
担当する、国のハローワークや県の養護学校など11の関係機関では、自分の領域のことしか分からない、いわば、行政機関の縦割りの壁が存在する。
それを市民が壊すために、「障害者の就労を実現しましょう」と会合を重ねるうちに、協力体制が出来上がった。
このように、行政の壁に拘泥されない市民だからこそ、新しい社会の問題を解決する設計図を描き、個々の機関の役割を位置づけ、協働を促すことができる。
行政を動かすのは、じつは行政自身によるのではなく、市民自らの意思にある、ということを端無くも、この事例は語っているのではないだろうか。
2)町田市内の就労継続支援A型を利用した動き
2006年に施行された障害者自立支援法では、従来の授産所や福祉工場は2011年度までに、一般事業所への就労支援に力を入れる「就労継続支援(A・B型)」「就労移行支援」事業などに切り替えるよう求められている。
A型は一般の従業員を雇うのと同様に障害者と雇用契約を結ぶため、最低賃金を保証する必要がある。
B型は雇用関係を結ばないが、平均工賃が月額3,000円程度を上回ることが要件。
上記にあるように、一般の従業員並みの雇用契約を結ぶ、A型事業の広がりが期待されている。
この1月20日、町田市において、上記の「就労継続支援A型」による事業が始まった。
それは、「スワンカフェ&ベーカリー町田店」というパン屋さん。
働く障害者の低賃金解消を掲げるヤマト福祉財団(東京都中央区)が、全国で展開するスワンベーカリーのチェーン店として開業したものである。
同店は、都内の最低賃金、自給719円を越える720円を従業員に支払う予定にしている。
東京都施設福祉課によると、都内の授産所の平均工賃は月額13,300円(2005年度)であり、最低賃金を越える額を支払えないとA型事業を始めることはできないため、A型事業を実施したのは、同店で2例目であり、既存の施設ではなく、新たに働く場を設ける例としては、初めての事業だそうである。
同店に従業員は約20人おり、そのうち10人が、19歳から40歳までの知的・精神障害者である。
主な仕事内容は、接客などのフロア業務が中心になるとのこと。
それぞれの適性に応じた仕事を考え、1日3時間、週3日だけ働く人もいるそうである。一日の売り上げ目標は10万円で、軌道に乗れば開店時間を早め、15万円を目指すそうである。
8、〔まとめ〕
本レポートでは、法定雇用率にこだわってリサーチしたが、もはや障害者雇用において、法定雇用率の遵守は、低次な要求というのが、今日置かれた状況である。
これからはむしろ、「障害のある人の社会参加をどう確保していくのか」が、問われることになろう。
その意味では、教科書『障害のある人の雇用・就労支援Q&A』(中央法規出版)のp.211にある、福祉的就労という名のもとに、授産施設などでの就労が広く行われている実態が、労働の概念に照らして明らかに不当であり、社会的統合(ノーマライゼーション)の理念を否定するもの、あるいはスティグマを助長するとの意見があることを知ったときには、痛撃を加えられた思いがしたものである。
その意味では、先日町田市内でオープンした「スワンカフェ&ベーカリー」での障害者雇用の取り組みは、推奨されるべき雇用形態であり、今後、広く実施されなければいけない動きである。