町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

「民族芸能」vol.66らん丈の、我ら落語家群像

2000.09.01(金)

 断るまでもなく、我らがホームグラウンドは寄席です。その寄席は原則として十日間毎に出演者が変わります。つまり、毎月一日から十日までを上席、十一日から二十日までを中席、二十一日から二月に限り月末まで、それ以外は三十日までを下席、そして三十一日は普通、余一会を開きます。

 そのうち、三十一日を除いて一の日を初日、五の日を中日、各席の最終日を楽日と呼んでいます。これしきのことは、落研の学生でも知っていることでしょうが、弟子は師匠のお宅へいつ伺うのかとなると、部外者には見当も付かないでしょう。

 何しろ師匠の判断によって、全くまちまちだからです。まず、見習を含む前座か否かで違います。内弟子ならば一つ屋根の下ですから考えるまでもないのですが、通いとなると、それでも毎日来いという師匠もいれば、前座の出が昼席の時は初日だけ来ればよろしい、という師匠もいる。朝行って、寄席が撥ねたあと、もう一度来いという師匠もいる。
 これが二ツ目になると、特別の用事がない限り一切来なくてもよろしいという師匠。初日ぐらいは来なさい、という師匠もいるでしょう。真打ともなると行く行かないは、大抵の場合、師匠よりは弟子の方で決められるようになります。

 以上ごく大雑把に記しましたので、該当しない場合の方が多いかも知れません。一つの例にとどまる、といったところでしょうか。 僕とて、うちの師匠(三遊亭円丈)以外の師匠の方針までは、詳らかではありません。

 ただどんな師匠にとっても、初日は重要な日でしょうし、我が円丈一門も御多分に漏れず、初日は空いている者はみな参集するのが、原則です。

 師匠のお宅に行っても、これが好い加減です。うちの場合、朝御飯は師匠と一緒に頂くものの、あとは銘々バラバラです。それでも大抵の場合は師匠のお話を弟子一同が伺うのですが、たまさか師匠から叱言を頂く者は当然師匠と二人っきりになりますし、どうしても師匠に聞いていただきたい話がある場合は、その旨をお願いします。そうでない者は、傍から見ると、何しに来たんだろうと思うでしょう。単なる世間話をして帰るだけなのですから。ところが、これが弟子にとっては何よりも嬉しいのです。そりゃそうでしょう。極端に言えば、その師匠に一生を託すつもりで弟子入りした憧れの人です。その人生を掛けた師匠と世間話が出来るなんて、考えてみればこれほど贅沢なことはありません。

ある事件に関する師匠のコメントを聞いて、「へえ、そんなふうに考えていたのか」と認識を新たにすることもありますし、落語家というより、人生の先輩として有意義な意見を賜ることもある。斯くして、落語家にとって初日はなくてはならない日、なのです。