町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

「民族芸能」vol.72らん丈の、我ら落語家群像

2001.03.01(木)

「目病み女に風邪引き男」と云う。たしかに目を患っている女性は、その潤んだ目つきがあだっぽく見え、色香がいや増す。ちょいとした風邪を引いて、喉なんぞに白い布でも巻いてご覧なさい、その男っぷりはいやが上にも二〜三枚は上がる。まして、治りかけの風邪声はどうしても低くなるので、尚一層その声を魅力あるものに変えてしまう。

 斯くの如く、「目病み女に風邪引き男」は異性に好印象を与えるのですが、何につけ、過ぎたるは猶お及ばざるがごとし、なのです。

 いくら目を病んでいる女性に風情を感じるとは云っても、その目が真っ赤では、兎じゃあるまいし、ものもらいを心配してしまいます。風邪とは云っても、のべつ鼻水を垂らしていては、百年の恋も醒めてしまう。

 つまり、今春も猛威を振るっている花粉症を患っては、はたからは同情こそされるものの、色恋沙汰へと発展する場合は無きに等しい。「彼のくしゃみったら豪快で、あたし、惚れ直しちゃった」「そうかしら、あたしは彼の粘り気のある鼻水の方がいいと思うの。凄いのよ。だって二十センチも糸を引くんだもの」と云う女性がいたら、三顧の礼を尽くしても、御付き合いを願いたい。

 今や日本人の一割は花粉症病みだそうですが、落語家では橘家圓蔵師匠の花粉症が有名です。御多分に漏れずぼくも花粉症とのお付き合いがあり、今春で早くも十年に及びます。ぼくの場合、その症状は先ず目の痒みに現れます。ここ数年だいぶその症状が和らいできたものの、最もひどかった頃の目の痒さと云ったら無かった。目を眼窩からひん剥いて水で洗ったら、さぞや気持ちがサッパリするだろうと、半ば本気で考えたほど眼球が痒かったものです。それと、今はもう大丈夫ですが、目が痒いせいか、睡眠中に出るめやに目脂にも困りました。朝起きても、目脂のせいで目が容易に開かないのです。自力での、文字通りの開眼が不可能なときは、親指を涙袋、人差し指を瞼に当て、ひっぺがすようにして無理矢理目をこじ開けたものです。そのときメリメリメリッと目脂の剥がれる音がきこえたと云うのは、ウソですが、「メヤニ男」じゃあ洒落にもなりません。

 加えて、かんでもかんでも出てくる鼻水。その昔、消臭剤のCMで、「元から絶たなきゃダメ」というのがありましたが、出来るならば鼻水のもとを絶ちたいとまで思わせる、絶え間なく垂れてくる鼻水。これも、処置に困るのです。鼻をかみ過ぎると、鼻の周りが爛れてしまうし、かといってかまなければ、鼻水は情け容赦なくズルリンチョ。

 業を煮やして専門医に診てもらい、改めて医学の進歩に敬服しましたね。あれほど辛かった症状が、綺麗に一掃されてしまうのですから。しかも、年にたった一度の診察で好いのです。正に、地獄で仏に会ったのでした。