町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

「民族芸能」vol.85らん丈の、我ら落語家群像

2002.04.01(月)

 球春といいますが、今年もいよいよプロ野球が開幕しました。本誌一九九九年十月号で元プロ野球投手、川口和久の著書『投球論』(講談社現代新書)について記しましたが、タイトルからして明らかにそれを意識して書かれたと思われる『捕手論』(光文社新書)が出版されたので、それにも触れないわけにはいかないでしょう。何しろ面白いんだから。

 著者は織田淳太郎というスポーツライターです。彼は川口と違ってプロ野球の選手経験はないため、内容は徹底して聞き書きの形式をとっており、素人では想像もつかないプロならではの言葉を引き出してきます。

 たとえば、捕手は球審の眼も意識しなくては、打者を打ち取ることはできません。ある球審は同じコースでも、ストレートならストライク、変化球ならボールの判定をする、なんて部外者には分かりようもありませんし、別の審判に際どいボール判定に対する説明を求めると

「ハガキ一枚、外れていたよ」
「そんなに外れてました?」
「いや、ハガキ一枚、縦に外れていた」

 つまり、一、二ミリ外れていたなんて、素人には思いも及びません。

 あるいは、盗塁を見破った投手がクイックモーションで投げたため、タイミング的には完全にアウトとなる走者を、捕手は刺すことができなかったときのコメント、「あまりにもいいタイミングだったので、慎重になるどころか、逆に慌ててしまった」これも、へぇ、そんなものかなと、感心するばかり。

 また、ヤクルトの古田は、その日の試合の全配球を記憶しているというし、あるバッテリーコーチは、捕手としての洞察力を磨かせるために、日常の生活に注意を払わせる。たとえば、休日の街中を若い女性が歩いていたとする。彼女はこれからどこに行くのか。ショッピングか、それともデートの待ち合わせか。ショッピングならば、どんな店に入るのか。そこで、後ろ姿を改めて観察すると、小奇麗な服装をしている。少なくとも服装に無頓着なタイプではない。ならば、ブティックに向かうかもしれないというひとつの選択肢が導きだされる、といった具合に観察力を磨かせ、引いては、勝負の駆け引きも習熟する。

 その結果、捕手は投手の女房役と呼ばれますが、投手の気持ちが分かるようになる。巨人にいた堀内恒夫は、その選手生活の晩年、バッテリーを組んでいた山倉とはノーサインで投球していた。「ところが、なにを投げても山倉は、軽々とミットの芯で捕るんだよ。あんまり不思議だったから、あるときマウンドに呼んで訊いた。『お前、ノーサインなのにどうして、楽々と芯で捕れるんだ?少しはビックリしてくれよ』すると、山倉は『だって分かるから捕れるんですよ』これが以心伝心というやつかな」恐れ入りました。