町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

「民族芸能」vol.93らん丈の、我ら落語家群像

2002.12.01(日)

『古典落語』が講談社学術文庫に収録される。落語って、学術でしょうか、の巻。

 先月十五日の朝刊に掲載された、講談社の広告を見て驚きました。
 それは、学術文庫の一冊に興津要先生が編集した、『古典落語』が加えられたという広告でした。もう一度書きます。講談社学術文庫に『古典落語』が収録されたのですよ。
 この本は言うまでもなく、昭和四十七年から四十九年にかけて講談社文庫から刊行された『古典落語』(全六巻)が絶版になったのに伴い、学術文庫に再収録されたものですが、いくらなんでも学術文庫とはねぇ。
 これを快事として歓ぶ噺家が、いったいいるものでしょうか。

 ぼくなぞが改めていうまでもなく落語は、大衆芸能です。たしかに、遥かな高みに達した名人といわれる大先達の芸は、落語の誇るべき精華です。
 それがいつの頃からか、落語が小学校国語の教科書に採録されるようになったのです。けれど、ここまではまだ、良かった。それによって落語に興味を持ち、親にねだって寄席に連れて行ってもらった小学生は、一人や二人ではなかったでしょうから。
 あるいは、テレビから寄席中継がなくなり、「笑点」以外には、NHK教育テレビによる「日本の話芸」でしか、落語が聴けなくなっても、世の流れと思える余裕はありました。

 あるいは、桂文珍師匠や鈴々舎馬桜師匠、立川談四楼師匠、桂文我師匠、露の団六さんらが、講師として大学で落語について講義を展開しても、むしろ、当然とも思ったのですが、しかし、いよいよもって学術となると話が別です。そもそも落語って、学術ですか。

 書店で現物を見て、もう一度驚きました。ご存知のように、興津先生は一九九九年に鬼籍に入りましたから、解説は別の方が担当されていました。その方の肩書きは、二松学舎大学名誉教授となっていますが、その先生の手になる解説は、ともかくとして、末尾に収録された「平成十四年現在の落語界」が、あまりにひどい代物なのです。よくもまぁ、これほどの出鱈目を活字にしたものだと、あきれてしまったのでした。

 というのも、噺家の名前が無茶苦茶なのです。一人や二人ならばともかく、これほどまでに、事実に反したことを記されると、困るのが、それを誤植と思わない一般の読者なのです。ぼくも素人の頃はそうでしたが、一般の読者は、活字は間違いないと思っていますから、それを絶対視する傾向があります。にもかかわらずの誤植、しかも本は学術文庫ですから、素人はこっちの方が、正しいと思い込んでしまうのではないでしょうか。それが、困るのです。版を重ねる際に、誤植は訂正していただきたいのですが、もっと問題なのは、果たして再版されるのだろうか、というのがまた問題なのです。それはそれで、なによりも困った事態なのですが。