「自選四季」 三遊亭らん丈
自作を検証するのが好きか嫌いかと問われれば、断然嫌いと、声を大にして申し上げる。なのに「自選」となれば、悪夢の如き仕儀ではありますが、師匠の仰せとあれば、致し方ございません。いざ。
春 石を蹴りながら帰る新入生
自画像です。新入生ですから、友達もまだおらず、仕方なく石を友に見立て、あろうことか、それを蹴りつつ帰ったのです。
夏 風鈴売ゆつくりと天秤棒下ろす
上げるときには、勢いをつける場合があり、さほどゆっくりではありませんが、下ろすときはゆっくりです。
秋 野分でさえ風はいつも横に吹く
当たり前のことながら、自然の風は上下からは決して吹きません。それは、野分であっても例外ではないのです。
冬 死ぬまでずっと爪を剪る冬の宵
爪を剪るのは、ほんの少しばかり好きです。できることなら、もっと指がたくさんあると暇つぶしには、もってこいなのです。
新年 初富士をじっと見ている座敷犬
なるほど、犬でさえも、初富士は、いつもの富士とはどうも異なって見えるようなのです。知らなんだ。