何につけ東京と関西では微妙な違いがあります。落語における彼我の違いを論ずれば、結構好いエッセイが書けることでしょうが、それは適任者にお任せするとして、ぼくはもっと細かいことを書きます。たとえば、ケンタッキーフライドチキンを東京ではケンタと略しますが、大阪ではケイフラと言います。マクドナルドは東京ではマック、大阪ではマクドと言うのです。斯くの如く東と西では違うのですが、共通しているのは、平成不況です。ついに日本経済は、デフレスパイラルへと突入してしまいました。
つまり、物価の下落と景気の悪化が同時に進行しているのですから、良い製品を安く売れば、一人勝ちできる世の中になったのです。したがって、衣料品ではユニクロが躍進し、一人勝ち状態です。牛丼屋さんは、繁盛のあまり食材の供給が間に合わず営業を休止するほどなのです。頼みの綱の牛丼屋が休みとなれば、おじさんは仕方なくマックへと、足を運びます。そこで目に付くのは、ドリンクを頼まないおじさんです。それは、ハンバーガー二つ、贅を尽くしてチーズバーガーを一つ、その三つをテイクアウトで大事そうに職場へと持って帰るおじさん。職場で飲むお茶はタダですから。と思いきや、世の不況たるや、そのお茶までも課金しなければならなくなったのです。静岡県の清水市役所では4月から、職場で自由に飲めた湯茶を昼食時だけとして、市費だった茶葉代を私費負担に改めたそうです。茶どころ静岡にして、これですから、味気ないぞと洒落を言ってる場合ではないほどに、不況の波は我々に襲いかかっているのです。
それにしても、あのハンバーガーという食べ物が、ぼくはどうにも好きになれないのです。たとえば朝から晩まで一生懸命働いて帰宅したお父さんが、先ず風呂に入りさっぱりした後、疲れを癒しつつ愛する家族と囲む食卓に供された夕食がハンバーガーだとしたら、怒る前に、情けなくなってしまうことでしょう。おれは、こんなものを食べるために身を粉にして働いているのかと思うと、腹立たしくなってしまいます。こんなものを売ってまで、金儲けしたいのか。こんなものを食ってるから、近頃の若者は根性がないんだ。等々の悪態をつきたくなるのです。けれど、おじさんも不況には敵いません。やがて、何事かを諦めたように、「結構、ハンバーガーって、旨いんだよな。ねぇ、ママ」とか何とか言いながら、中年太りを気にするお母さんが買ってきた無脂肪牛乳で、ハンバーガーを胃へと流し込むのです。子供は元来身にならないジャンクフードを好むものですが、それにしてもどうして子供は、あぁまでハンバーガーを好むのでしょうか。ならば長じて後、最後の晩餐でも、ハンバーガーを食べたいと所望するほどの一徹さがあるのならば、ぼくもそのハンバーガー好きを認めるのですが。
ぼくはやはり、飯です。人気脚本家の三谷幸喜さんのエッセイを読んで、三谷さんは、奥さん(女優・小林聡美)が不在の時は1日に2度も松屋で牛丼(牛めし)を食べているのを知り、心強く思ったものです。あれほどの売れっ子でも牛丼を食べるのだから、ぼくが食べて何の憚りがあろうかというエキスキューズになります。
以下は、ある牛丼屋で目撃した光景です。ぼくが席に着くと隣には、20代前半のカップルが座っていました。ぼくはいつものように並盛りを注文し、牛丼にたっぷり唐辛子を振りかけているとき、隣のカップルはお勘定の段に、男性が「お愛想」と店員さんに告げるのです。牛丼屋でお愛想って言うか、寿司屋じゃあるまいし。