ぼくは今両国の隣、錦糸町に住んでいますから、地方場所がない限り、至るところでお相撲さんを見かけます。ご存知のように両国には国技館があり、それを取り囲むように相撲部屋があちこちに点在しており、我が家のすぐ近くにも九重部屋や間垣部屋、若松部屋等があるからです。国技館は隣町にあり、年3回合計45日間にわたって行われる東京場所へは、歩いても20分で行くことができるのです。
さぁこれが困ったことでして、何年かに一遍しか来ない地方巡業ならば、ちゃんと前売券を買い、準備万端整えて相撲見物に臨むのでしょうが、1年に一場所はある大阪、名古屋、福岡あたりから怪しくなって、いよいよ国技館の隣町ですと、いつでも行けると思うから、逆になかなか行く気にはならないのです。それが証拠に、以前堀切に住んでいたとき、菖蒲園にはいつでも行けると思うから、結局一度も行かず、錦糸町に引っ越してからわざわざ行ったほどです。
その国技館へ、9月の秋場所初日、久しぶりに行ってきました。実は二度目の本場所でして、前回行ったときは若貴+曙フィーバーの真っ只中で、連日大入満員が続いていた、今となっては古き良き時代のことでした。その当時と較べて、若乃花は引退後アメリカンフットボールの選手になり、曙は親方になっており、唯一現役の貴乃花も怪我で休場と、関取の栄枯盛衰を眼前に見る思いでした。
それでも、桂米朝師匠が云うように女性は「芝居、蒟蒻、芋、タコ、南京(豆)」を好み、それに対して、相撲見物を何よりの娯楽と心得る男性も、すた廃れてはいませんでした。それが証拠に土俵下は、やはり圧倒的に男性客の方が多かったのでした。
落語家が好む娯楽を3つ挙げろと言われれば、躊躇なく歌舞伎、プロレス、相撲と答えます。まして、東京場所の場合、芸人として千秋楽の打ち上げに呼ばれ、余興を頼まれる相撲部屋の関取の取り組みには、力一杯の声援も送りたくなるもの。
今回の相撲見物は前日、ぼくの落語会に出演後、そのまま我が家に泊まっていただいた上方の落語家、露の団六さんとご一緒でした。彼に聞いた話。前述のように、上方の落語家も相撲好きが多いので、大阪での春場所には、打ち揃って見物に行くことがよくあるそうです。その見物も序二段あたり、午前中から始めるもので暇を持て余すと、よく呼び出し遊びをするそうです。つまり、場内呼び出し係に頼んで会場に「地獄からお越しの露の団六さま、地獄からお越しの露の団六さま。ハーバード大学の露の五郎さまが三途の川でお待ちしおります」とアナウンスしてもらうというのです。もちろん、大阪のことですから場内はやんやの喝采となります。ただし、これが毎日のようにやられるものですから、その後、落語家お断りとなったそうですが。
今回ぼくが見物したのは2階自由席、つまり最も安い席で、たったの2,100円。これは安い。まして、幕内力士土俵入りがある午後4時頃までは、場内は閑散としておりますから、どこにでも移動して見放題です。それが、平日ともなれば一層空いているでしょうから、相撲ブームの去った今こそ見物には適していると言うべきでしょう。
それにつけても思うのは、相撲ファンには目をみは瞠るような美しい女性が多いということです。これが寄席との一番の違いでしょうか。桟敷に座るワケ有り風な女性が昼間からひっそりと徳利を傾けながら相撲を見物しているさまなぞを見ると、いやが上にも雰囲気が盛り上がるのです。あぁ、羨ましい。